Too much pain
−2−



クーラーのタイマーをセットして、目覚ましの時間も設定して。

お互いあんまり会話もしないで、眠る準備だけが着々と整ってゆく。

カオリのバッグが視界に入る度に、不思議には思うんだ。なんで後藤は、今夜この部屋に来たんだろう。

みんなで騒ぎ疲れた末に、部屋割り無視して寝入っちゃうとか。そういうのとは訳が違う。

――そんなふうに疑問を感じてるくせに、口に出して聞けない。

その原因はたった一つだけど、後藤はそこまで見透かして来てるんだろうか。

どっちにしろ、このまま眠れるほどタフな人間でもない自分が恨めしい。



「後藤、なんでこっち泊まることにしたのさ。なんか、話でもあったの?」

そうなんだったら、寝る前に聞くよ?みたいなポーズを作りつつ。視線を合わせないで、そう切り出した。

ベッドに腰掛けた姿勢で、上目遣いに後藤の様子を伺う。後藤は、髪を押さえてたヘアバンドを外しているところだった。

「別に、話があるって訳じゃないんだなー。たぶん」

ばさり、と長い髪を無造作にかきあげて、後藤がこっちを振り向く。

「圭ちゃんが来ないから、後藤が来たの」



強く――見つめたんじゃない。見据えられて、視線をそらせなかった。

静かな眼差し。だけど。後藤。

唇が、少し拗ねてるように、見える。

「……それだけ」

消え入りそうな呟きも。全部。

急激に血液が身体中を巡るような感覚。指先に熱が灯る。

すぐ近くにある細い腕を、そっと掴む。引き寄せようとして、叶わない。

「嫌だ」

はっきりと拒絶する意志の、その頑なさがひどく哀しい。



「圭ちゃんが、どうしても、って言うんじゃなきゃ、嫌だ」



――寒かったから。寂しかったから。あの夜は、幾つもの言い訳が必要で。

後悔なんかしてない代わりに、一度限りのことだと思ってた。

今夜は、もう逃げる術が無いね。

伏せた睫毛を、泣きたい気持ちで見つめる。溢れる想いは、愛しいとか、そんな言葉じゃ足りないのに。

「どうしても」

促すように、軽く手を引いた。

「一緒に寝よう?……頼むから」

ゆらり、と後藤の上体が傾ぐ。糸が切れたように膝から倒れ込んで来るのを、柔らかく抱きとめた。





ねぇ、後藤。

紗耶香がいなくなったとき、あたしは全てを失ったような気がしたんだ。

大袈裟かもしれないけど、築いてきたもの、全部。



後藤は、どんなふうに傷ついた?どれぐらい痛かった?



癒せない傷。決して触れられない場所にあるのを知りながら、あたしはまた手を延べる。

もどかしさで傷つくのが自分なら厭わない。

伝う体温。微かに速い鼓動。あたしの腕の中に。

だから、今だけでも絶対に離すことなんかしない、と――切なく目を閉じて、強く強く抱き寄せた。






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