Beginning of the end
−all over−



聞きたいことがたくさんあるんだ、と紗耶香は言った。

それは、いつから?とか、なんで?とか、どんなふうに?等々。至極当然の、問いかけ。

あたしは視線を伏せたまま、考え込むふりをする。――本当に考えている訳ではなく。

いつから。なんで。どんなふうに。思い出せるし、忘れられない。

ただ、考えを巡らせることを心が拒否している。懐かしすぎて。あまりにも悲しくて。

「教えない」

苦く笑ってそう答える。あたしをじっと見つめていた紗耶香は、不満気に音を立ててカップをテーブルに置いた。



「教えてくれなきゃ分かんないよ。あたしさ、ずっと考えてたんだよ?でもやっぱり、あたしには圭ちゃんの気持ち分かんないから、だから」

「――言っても、紗耶香には分からないよ。きっと」

「なんでっ!」

じりっ、と詰め寄って来る紗耶香を見据える。お互いに睨み合ってるような、苦しい沈黙。

けれども不意に、紗耶香の眼差しが力を失くした。

「なんだよ……」

溜息みたいな呟き。不安がってる。もどかしがってる。

それが、分かる。



そんな表情、させたくない。手を伸ばして髪にふれた。

本当は抱きしめてしまいたい。前みたいに。前だったら。



でも、まだ、苦しい。



「ごめんね」

よしよし、と何度も頭を撫でる。そうすることで、はりつめていた空気はほどけて。

「……会いたかったんだよ。圭ちゃんに」

紗耶香の頼りない声が、揺れる。

「分かんなかったんだけど!全然……圭ちゃんの気持ちも、どうしていいのか全然分かんないけど、でも、すごく会いたくなったんだよぅ」

言葉の全部が、いちいち耳の奥に響いて。どうしようもない。止められない。

溢れる想いは――ただ、愛しい。



髪を撫でてた手を、頬から、首筋へ。そうして、肩にふれて。そっと抱き寄せた。

紗耶香は、されるままに身体を預けてきて。それは、懐かしい温かさ。

なんだろう、頭の中は妙に冷静だし。気持ちは、クリアに掴める。

自分のことも。紗耶香のことも。

「……圭ちゃんは?」

掠れた声と微かな吐息が、喉元にかかる。何が?と問い返したら、腕の中の紗耶香が視線を上げた。

「あたしに、会いたかった?」



まっすぐに見つめられて、痛いとさえ思った。喉が熱くなる。

頼むから、聞かないでよ、そんなこと。心で叫ぶ。

何も、知らないから……それとも、少しでも分かってて言ってる?

会いたかった、って――どれだけ、会いたいと願ったか、なんて。

視線をそらすように、弱く首を振った。それでも、たちまち視界は霞んで。何も見えなくなる。

「……会いたかったよ」

もう、何も、繋ぎ止める気持ちもない。取り返しがつかなくていい。今日、こうして、きっと全部が終わるから。

「好きだったよ。紗耶香のこと。……紗耶香が、分かんないぐらい」

叶わないまま過去形になった想い。だから、何処までも譲り渡せる。踏み込まれてかまわない。

それさえも、心地いい。



全部、全部流れてゆく。想いも、言葉も。

いつのまにか背中に回されていた紗耶香の腕は、それだけであたしを優しい気持ちに満たしてくれた。






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