Adolescence
−1−



何も、変わらなかったと思うんだ。いつもと。別に。

でも。



不意に、梨華ちゃんのことを抱きしめたくなった。

考える前に、そう、してた。



ごく普通の会話が途切れた瞬間。



腕の中で、梨華ちゃんは黙ってじっとしてる。

心臓の音が伝わるぐらい強く、ぎゅっとして――なんだかやばい人みたいだ。自分が。

全然分からない。どうしたんだろう。どう、したいんだろ。

ただ、離したくない。



腕の中で、梨華ちゃんは相変わらずじっとしてる。

視線を落とすと、すぐそばにさらさらの黒い髪。シャンプーのいい匂いが、いつもよりずっと近い。

ぼんやりと眺めてるその向こう側は、ピンク色の小物があちこちに散らばってる梨華ちゃんの部屋。



……嫌だったら、嫌って言うよね。

なんか最低な言い訳が頭をかすめる。

こんな衝動の理由も知らないまま、梨華ちゃんの髪をかきあげて耳にキスした。

反応が全くナシで、それが――怖いのに。危ないって思うのに。思うだけ。

ゆっくりと、耳と首筋に唇を落とす。何度も繰り返す。表情が見えないことで許されてる気になってる。



と。背中に、梨華ちゃんの腕が回されてることに気づいた。その手で、ぎゅっとあたしの服をつかんだから。

それが否定なのか肯定なのかを、でも、あたしは考えない。

そうして、確かめない。いい?とか、なんか、そういう――そうした方が本当なんだとも思うんだけど。

やだって言われてじゃあ止められるかっていうと、そんな訳ないような気がして。



唇が届く範囲へのキスと、左手で髪をさらさら撫でるのと。

それだけで熱いのに、それだけじゃ足りなくなる。

ふぅ、と軽く息をひとつついて、梨華ちゃんの頬にふれた。顔を上に向けさせる。ゆっくりと、そっと。

眩しそうに視線を上げる梨華ちゃんは、なんだろ、別に何も特別な表情じゃないのに、初めて見るような顔。

そういえば、あたしは自分が今どんな顔してるのかもよく分からない。

目を合わせたら、もう何も考えられなくなった。全身が脱力して、目を開けていられなくなる。

ふらり、と傾くように顔を寄せて――唇より先に、おでこがこつん、とぶつかって。そうして、キスした。



梨華ちゃんとのキスは初めてじゃないんだけど。胸のあたり、ドキドキっていうかなんか、ざわざわしてる。

落ち着かない。何かに急き立てられてるみたいで、ここからもっと先があるって知ってるそれに向かってる。



唇をふれさせたままで、もう一度抱きしめる。

ゆっくり身体を傾けて、少しずつ倒れ込んでく。

――そういうコトの出来てる自分が、自分で不思議。

両腕で身体を支えて、横になった梨華ちゃんの上にかさなる。外側から守るように。内側に閉じ込めるように。

唇を離してからしばらく、じっと間近にある顔を見つめてた。

梨華ちゃんの言葉を、心の何処かで待ってる。それがどんなものでも、今より楽になれる。きっと。



けれども、梨華ちゃんの唇は弱く結ばれたままだった。






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