Your song



言うつもりもなかったこと。言わずにおこうと思ってたこと。

でも、それは口先だけの言葉じゃないから。



「ごっちん、なーに聴いてんの」

「んー?娘。の、ベスト」

騒がしい控え室で、なっちに話し掛けられて、MDウォークマンのイヤホンを片方だけ外した。

と。別にそのために外した訳じゃないのに、なっちがその片方を自分の耳に当てる。

「あぁー、ホントだぁ」

言って、無邪気な笑顔をあたしに向けた。

……なんだろうね。なんだろう。ベストアルバムなんてさ、みんな持ってる筈だよね。

なのになっちは、本当に楽しそうに笑うんだ。



二人で、ひとつずつイヤホンを付けたまま。

ふと思いついて、言ってみた。

「後藤ねー、そういえば『ふるさと』ってけっこう好きなんだよね」

耳元で流れていたのは全然別の曲だったんだけど、何故だか、試してみたい気持ちで。

なっちは、ぱち、と目を瞬いて、ふわりと柔らかく微笑む。

「そうなの?そっかぁ。やー、ありがとう」

はしゃいだ笑顔も、微妙にズレてるお礼の言葉も。――きっとそうなるって、分かってた。



『ふるさと』は、なっちの歌。後藤の知らない娘。の歌。

みんなは、少し辛そうに思い出す。

だけど、いい歌だよね、って。後藤がそう言ったら、喜んでくれるような気がしてた。

分かってたから、ずっと言わずに。

……だって、そんなのって、なんかさぁ。



ほら、こんなに幸せそうに笑うなっちがいる。

後藤の隣で。たった一言で。

今日は、なんだかそんな気分だったんだよ。



「なんかねぇ、面白いねー。ごっちんとさぁ、こうしてるのって」

「そうだねー」

あたしの笑顔は、なっちのそれほど素直じゃない。

だけどきっと、なっちはそんなの気が付かない。

いいんだ、それで。

気にも留めないなっちが、とても。



「あのさぁー、なっつぁん」

「ん?なに?」

「なんでもなーい」

「なんだよぉ。おかしいの」

子供みたいなこの人は、オカシイあたしに、屈託なく笑う。

なっち。



好きだなんて言っちゃったら、どれだけ嬉しがってくれるかな。