Weakness



控え室にて。

十人分のざわめきに紛れるように、バッグから携帯を取り出す。

なんや、今日も着信ナシか。……それはさておき。えーと。

『今日、うち来るん?』と。ショートメールを送ろうとした、まさにそのとき。

手の中で携帯が振動して、メールの着信を知らせた。

ディスプレイに表示されてる名前。その相手を、視線を上げて探す。と。

椅子に座ったままで、こっそりとこっちを覗き見ていて。ぱちりと目が合うと、お互いにふっと笑った。

『今日、裕ちゃんちに行ってもいい?』

送られてきたメッセージに、あたしは、今度はひとりで微笑んで。

打ち込んであった文章を削除して、改めて、『了解』と入力して。送り返す。

素知らぬふりして見ていた、視界の端。なっちの手の中で、携帯が反応した。



「裕ちゃん、あとちょっとで出来るからね?待っててね」

キッチンからの呼びかけに、はいはーい、なんて調子のいい返事を返しつつ。2本目の缶ビールを開ける。

「もぉっ。酔っ払って寝ちゃわないでよー?」

追いかけてくる声に、苦く笑った。



この頃、なっちが元気だ。朝からずっと、現場でも楽屋でも。

何処にいても分かる。目が、追う。

今日も。

目を閉じても浮かぶ、弾けるような笑顔。

耳の奥にまだ残ってるような、はしゃいだ声。

元気な、なっち。それは、記憶だけでこんなにもあたしを。



「裕ちゃーん。出来たよ?起きなさーいっ」



うっすらと目を開けると、なっちがすぐそばに立ってあたしを見下ろしていた。

テーブルの上にはいい匂いの料理が二皿、暖かな湯気をたてて。



――こんなにも、シアワセに。



「もぉー、起きて待っててって言ったっしょ?ね、食べよ?おいしく出来たよ」

あたしの隣にしゃがみ込んで、にっこり笑うなっち。

今日一日の、どんな記憶よりもクリアな笑顔。

「……裕ちゃん?」

不思議そうな呟きごと、そっと抱きしめた。

頭を、よしよしと撫でる。いいコやな、頑張ってるなぁ、って。耳元で囁く。

「……えへへ」

あたしの耳元に、はにかんだように小さく笑う声が返ってきた。

「だって、裕ちゃん、見ててくれてるっしょ?」

そう言って、なっちが顔を上げた。黒目がちのまっすぐな瞳に、あたしが映っている。

……あたしが見てるん、気づいとったんか。

「だからだよ。裕ちゃんがなっちのこと見ててくれてるから、なっち、いっぱい頑張れるんだ」



ふわふわと。思考が覚束なくなるのはアルコールのせいなのか、それだけじゃないのか。

抱きしめてるなっちの心臓の音が、とくとくとやたら早いように感じるのは気のせいじゃないんだろう。

……なんやめっちゃいー気持ち。腕の中で、ちょっと困った顔をしているなっちがむちゃくちゃ可愛い。

だってそれは、今日一日頑張ってたなっちと違って。誰にも見えない、今ここにしかいない、なっち。

「ねぇ、……裕ちゃん?」

あぁ、そんな優しい声で、そんな目で。そんな甘え方されたりしたら。



なっち。



「……っ!ちょおっ、裕ちゃん!?酔ってるっ?……ちょっと……やっ……」