Sympathy?



微かな雨の音で目が覚めた。

身体が気怠くて、あぁ、そうだったっけ、と思う。

聞こえるのは雨の音じゃなくて。



……裕ちゃんが戻ってきたら、あたしもシャワーを浴びよう。

ぼんやりと、そう考えた。

時計の針は、もう眠らなきゃいけない時刻を指してる。



ベッドの上で、身体を起こす。乱れた長い髪がなんだか色っぽいな、なんて自分で思って。

さっきまで絡んでいた裕ちゃんの指の感触を、その頼りない力の加減をまだ覚えているような気がした。

雑多な空間。裕ちゃんに言わせると「散らかり過ぎ」な、あたしの部屋。いつもと変わらない、あたしにとってはこの上なく自然な。

でも。

さっきまで裕ちゃんがここにいて。もうすぐ、また、現れる。そう思うと、なんだかすごく特別で。

この場所を切り取って小さな惑星にして、宇宙にふわふわ浮かんでいられたらいい。そう願った。



幸福のような、そうじゃないような。そんな考え事を破ったのは、携帯の着信音だった。

手にとって、ディスプレイに目をやる。見知った名前。

……だから。



それはあたしの携帯じゃなかったのだけど。



「もしもし、なっち?ごめん、あたし。彩」

『……彩っぺ?あれ、あたし……』

受話器の向こうで、怪訝そうな雰囲気。けど、たぶん間違いなく、自分の操作ミスだと思っちゃってる筈の。……可愛い声。

「や、裕ちゃん今取り込み中なんだ。だからごめんね、なっちの名前だったから出ちゃったんだけど」

『……そうなんだ……そっか。えっと、別に急ぎの用事じゃないから。じゃあ……』

逃げるように語尾が消える。怯むみたいに。

自分の言葉、それが含む意味を全部そのまま受け取られたことは明らかだった。



――あたしと裕ちゃんは今一緒にいるんだ。こんな時間に、だよ?



「なんかあるなら伝えとくよ?たぶん後で、かけ直してくれると思うけど」

『ううん、いい……。ちょっと、話、したかっただけ。なっち、もう寝るから……おやすみ。彩っぺ』

弱々しく沈む声。胸が詰まる。嘘じゃなく。

そうさせたのはあたしだけど。そんなこと分かってるけど。でも。

「……ん。じゃ。おやすみ、なっち」

ピッ、と電話を切るのと同時に、バスルームのドアが開いた。



「彩っぺー、何か服、こっち投げてや」

そこから手だけを出して、ひらひら振ってる。はーい、とあたしは返事をして、用意してあったスウェットの上下を手にして。

「はい、これ」

「……なっ、わざわざこっち来んでも。やーらしーなぁ、自分」

それでも、別に恥ずかしがる訳でもなく。伏せた視線はいつものことで、あたしはそれを見るのが好きで。それだけ。

「いいじゃん今さら。あたしもシャワー浴びたいし。交代交代」

「はいはい。早よ戻って来な、あたし寝てまうで?」

くるくると服を着た裕ちゃんと、バスルームに入れ替わりになる。そのタイミング。

「あ、なっちから電話あったよ?」

そう、とそのまま部屋に消える背中に、付け足す。

「ごめん、あたしさぁ、ついつい出ちゃったんだよねー」



振り向いた、その顔。一瞬だけ見えた純粋な抗議の瞳に惹かれる。



「……人の電話に勝手に……アカンて。相手がびっくりするやろ、いくらメンバーや、ゆーても」

本当は、強く怒りたいくせに。妙な気遣いして、大したことないふり。――バレバレだよ、裕ちゃん。

「うん、ほんとゴメン。なっちからだったから、つい。……許して?」

それに便乗してる、あたし。――なっちからだったから、だからダメだった?なんて。瞳で茶化す。

「……ま、しゃーないけど。今回は、許すけども……。で?何の用やったん?なっち」

言葉を濁して。不意に顔を上げて。ぱっ、と、それはそれは素早くリーダーの顔をしてみせる。

「や、別に、って。ちょっと話したかっただけだって。もー寝るって言ってたけど……」

蛇口を捻ってシャワーに切り替える。ざあっ、と溢れ出す音に言葉の続きを紛らせる。

気になるんなら、電話してあげれば?――そんなこと、わざわざ口に出す気にもならない。

バスルームのドアを閉めて部屋に戻った裕ちゃんが、誰のことを考えているのかぐらいお見通し。

――それぐらい許せなきゃ、やってられないさ。

立ち昇る湯気が暖かくて、あたしはようやく微笑むことが出来た。



……やめときなよ、あんなヒト。ねぇ、なっち?



健気に向けられる眼差しの持ち主に、いつでも言いたくて仕方ないけど。

その言葉は誰のためって、あたしのためだから。言わない。

まだまだ大人なんかじゃない。それでも、格好よくありたい。

だから。

あたしだってこんなに健気だ。裕ちゃんが寝ちゃう前に上がらなきゃ、なんて急いでシャワーを浴びてるあたり。