Style book



ねぇ、裕ちゃん。

「……んー?」

なんか全然気のない返事。

せっかく裕ちゃんちにこうして一緒にいるのに、さっきから雑誌に夢中で話にならない。

そりゃあさ、着いてすぐに友達から携帯に電話があって、ついつい長話しちゃったのは矢口だけどさ。

そのあいだ、裕ちゃん、つまんなかったかも知れないけどさ。

「裕ちゃん、ってばぁ」

「何?矢口」

もうっ。雑誌に視線を落としたままで、振り向いてもくれない。

寂しくて退屈で、背中にぴったりと寄り掛かってみる。細くて薄っぺらくて、でも暖かい裕ちゃんの背中。

後ろから覗き込むと、読んでいるのは普通のファッション誌みたいだった。

「珍しくない?そーいうの読むって」

「あぁ、コレな。今日ヒマしてて圭織に借りてん」

だったら今読まなくたっていいじゃん!そんな言葉をぐっと飲み込む。

斜め後ろから見る裕ちゃんの、伏せた睫毛が見とれるほど綺麗だったから。



それからしばらくは、二人とも黙ったまま。

雑誌を見てる裕ちゃん、裕ちゃんを見てるあたし、そんな感じで。

けど、ふと、裕ちゃんがページをめくる手を止めた。

「このスカート、可愛いなぁ」

「どれどれ?あ、ホントだ。可愛い……」

春っぽい、ロングのフレアスカートだった。淡い色のチェック模様。

「なっちに似合いそぉやな」

微かに笑った薄い唇に、矢口リミットブレイク――。

「矢口だって似合うもん!」

なっちより、とは言わないけどさっ。

でもなにも、二人でいるときになっちの話することないじゃん。ひどいよ裕ちゃん。

めいっぱい怒り顔だったのに、睨んだのに。裕ちゃんは矢口を見て、ころころ笑い出した。

「アカンて。矢口こんなん着たら裾踏むんちゃう?」

……っむうぅうっ!

「矢口の厚底15センチだもん!全然っ、全然着れるよぅ……」

なんか言ってて悲しくなって、声が小さくなっていく。

やばいよ、泣きそうだよ。……裕ちゃんのせいだ。

俯いた矢口の頭を、ぽんぽんと軽く裕ちゃんの手が叩く。

「あー、はいはい。そぉやね。でも、こっちの方が矢口には似合うんちゃう?」

……んん?

裕ちゃんの指が、隣のページを差していた。うすいピンクの、ニットのワンピース。

「……うん。矢口、こーゆうの、好き」

「な。あとな、こっちの……」

裕ちゃんの、指が。

ぱらぱらと音を立てて、ページをさかのぼる。

「ほら、これとか。これと……何処やったかな、さっきめっちゃ矢口っぽいやつあったで」

ぱらぱら、ぱらぱら。

探しているその手を、あたしはそっと、握った。

「ん?」

「いーよ、もぉ……」

裕ちゃんが、似合うと思ってくれた服なら。

きっとそれは確かめるまでもなく、矢口にめちゃめちゃ似合う筈だよ。

「裕ちゃん……」

ごめんなさい。怒ってないです。――大好き。

気持ちを込めて、細い腕にそっと抱きついた。

「なんや……怒ったり謝ったり、自分」

忙しーやっちゃな。

耳元に、優しく笑う気配。

裕ちゃんの手が、矢口の頬にふれて。顔を、軽く、上に向けられる。

あたしは、何もかも許せる幸せな気持ちで目を閉じた。



ばさっ。

大きな音を立てて、雑誌が閉じられる。

「やっぱなぁ、圭織が読んでるような本じゃ、なかなかあたしが着れるのってナイなぁ」

溜息をつきながら、裕ちゃんはつまらなさそうに呟いた。

「そんなことないよ裕ちゃん。全然いけるよ?」

「そっかなー。どぉなんやろな」

矢口が言ってもあんまり本気にしてくれなくて、表情が晴れない。

そして、そんな会話の続きみたいに。

「今度、矢口、買物付き合ってな」

……って。

「うんっ!えー、すごぉい……裕ちゃんと一緒にお買物だぁ♪」

はしゃいじゃって、笑いっぱなしの、あたしに。

「言っとくけど店はあたしが選ぶで?」

さすがに矢口と同じ店はムリや。

そう言って、裕ちゃんは苦笑いした。



そんなに時間の取れるオフは、たぶんきっとずっと先なんだけど。

絶対、忘れないでね。約束だからね――裕ちゃん。