Step by step



矢口さんは、よく分からない。



たとえば、今日の楽屋での出来事。

にこにこ笑って、「よっすぃー大好きーv」って抱きついてきて。

それはわりと――ものすごく嬉しいんだけど、でもとりあえず照れちゃって、ふわふわの金髪を撫でるぐらいしか出来なくて。

そしたら「なんだよー!辻加護と同じ扱いかよぅ!」とかって拗ねるし。縋りついてた腕を、ぐいって押し返して離れちゃうし。

慌てて「違いますよ!」つって抱き寄せ――だって腕の長さとか身長差とか、いろんな要素が必然的に!――うん。そんな感じで。

それで「あたしも矢口さんのこと大好きに決まってるじゃないですかー」って……言ったよ!言ったさ!あぁもう、この口が!

なのにさ、今度は「いやぁーvちょっと恥ずかしー!」つってじたじた暴れて(その仕草がめっちゃ可愛かったのは別問題だ、この際)。

で、するり、と抱きしめてた腕から逃げ出して、「やははー」なんて、ちょっとピンクに上気してる頬で笑いかけられたりしたら。もう。

こっちとしては、ここが楽屋じゃなかったら!ぐらいの気持ちになってないこともないのに。……っつーか、バリバリなってるのに。

矢口さんは……矢口さんってばさぁ!

なんか、「なぁにしてんの、やぐちー」だか話しかけてきた安倍さんに、「やー、ちょっと愛の告白」とか言いながら。言ってるくせに。

「あ、そーいやなっちに見せたいものあったんだ」って!ふいっ、とそのまま、安倍さんの腕引いてどっか行っちゃったんだよーっ!



……や。その『なっちに見せたいもの』ってのは、安倍さんと同じ8月10日生まれのバースデーテディだ、って。知ってるんだけどさ。

昨日何気にコンビニで買ったら、偶然ゲットしたらしくて。きゃあきゃあはしゃいで「明日なっちにあげよー」とか言ってたの、見てたしさ。

だから、別にそれに対して怒ったりしてる訳じゃないんだけど。……。

ってゆうか、そもそも何をこんなに考え込んでるんだっけ?あたしは。



えーっと。



矢口さんは、分からない。

あぁ。それだ。

――あたしのこと、どう思ってるんですか?

って、さー……聞いたらあっさり「好きーv」つってくれそうな気は、するんだ。うん。それは自信ある。悪いけど。

ただ。

その『好き』は、どのぐらいの『好き』なのか。それが分からない。知りたい。

ぶっちゃけた話、「誰より」「どれぐらい」って数値化してほしい……それはルール違反だし、無理なことだって承知だけどさ。

雲をつかむような感じ。これが恋なら、それも当たり前なんだろうか。それさえ計りかねてる自分が、単に鈍いんだろうか。

誰にでも向けられてる笑顔。誰にでも紡がれる『好き』の言葉。誰にでも抱きつきたがる腕。

――独占したい、と思ってしまう自分は、もしかしたらとんでもなく欲張りってことなんだろうか。



半日近くうだうだと頭を離れなかった悩み事は、帰り際、ごっちんに一蹴された。

曰く、「よっすぃー、たぶんそれ相手のこと言えないと思うよ」ですと。

あ、もちろん具体的な名前を挙げて相談した訳じゃなくって(無駄な抵抗だけどね……)あくまで一般論として、みたいに話したんだけど。

とにかく、ごっちんに言われて初めて、日頃の自分の行動を振り返ってみよう、って思い至った。

で。

……笑顔。『好き』。抱きつき癖……っ!

嫌になるぐらい、矢口さんのこと言えないじゃんか!自分。

ってゆーか。じゃあ。矢口さんは、そういうあたしのことはどう思ってるんだろう?

独占したい、とか。あたしが矢口さんに対して思ってるほどには、矢口さんは思ってないってことになるのかなぁ?

降って湧いた疑問に、その夜は頭を抱えて眠った(悩んでても寝ちゃうもんなんだな、ってのは新たな発見だったけど別にどうでもいい)。



結局。

「矢口さん、矢口さんっ!」

どんなに考えて、頭の中で結論を出そうとしても無駄だ、って。

「おはよ、よっすぃー。なに?なになに?」

あたしがそれに気づくのは、もっとずっと後なのだけど。

「これっ!見てください」

とりあえず集合場所に駆け込んで、手にしたビニールバッグごと、矢口さんにほとんど押し付けるように渡す。

「あ?いやあぁっ、かわいー!欲しー!」

期待通り――それ以上のリアクションに、知らず、顔が綻んだ。

余った移動時間、ふと目に付いた店頭のUFOキャッチャー。あと少しで取れそうな位置に『くまのプーさん(約30cm)ぬいぐるみ』。

矢口さんにあげたら喜びそうだなぁ、と思って1ゲーム挑んだら、標的が大きいせいか意外に苦戦を強いられて。

千円札を崩した辺りで、絶対ゲットして矢口さんにあげるんだ!って感じに燃えてて……結果的に時間ギリギリで戦いに勝利。入手。

その、ぬいぐるみ。

「あげます」

ばさばさとビニールバッグを剥ぎながら、出来るだけさりげなく言ってみた。矢口さんの表情に注目したままで。



――つまり、気がつくといつのまにか、この人のことで頭が一杯になってる、ってこと。



黒目がちの瞳が一瞬見開いて、すぐに、ふにぃっと柔らかく細まる。そのときにはもう口元は笑顔になってて、そのまま叫ぶ。

「ホントに!?マジで?なんで?やったぁー!」

ぎゅうぅ、と顔を埋めるようにしてぬいぐるみを抱きしめて、「可愛いよぅ〜 v」って呟く、蕩けた声。

――だから、そうやってる矢口さんの方が可愛いですってば!

あたしは反射的に心の中だけで叫んだ。口にしたら、この人は照れてすぐに表情変えようとする。きっと。

今だけでも、少しでも長い間、笑顔を一人占めしていたいから。そう思って見守る。……なのにっ!

「ありがと、よっすぃー!超好きーv」

ぬいぐるみ抱えたまんま、あたしの腕の中に!身体ごとっつーか、もう……抱きとめるしか!抱きとめたけど!ここからどうしたら!





……とりあえず、矢口さんが恥ずかしがらないような愛の言葉と、簡単には逃げられない抱きしめ方。

その辺が今のあたしの課題らしい――って、分かっただけ良しとするか。な。