Quietude
| 「『裕ちゃん、最近後藤のこと好きでしょ?』ってねぇ、圭ちゃんが。しかも後藤のいる前で――」 ラジオから流れる裕ちゃんの声に耳を傾けてたら、不意にそうやって名前が呼ばれた。 今夜のゲストは平家みっちゃんで、ふたりのラヴラヴっぷりも苦笑いしつつ、聞いた。 明日会ったら、また、感想を述べようと思う。まぁ、なんていうか律義なメンバーとして。うん。 「もー、さぁ。アナタたち、いちゃつき過ぎって感じ?聞いてて暑くなっちゃったよ」 翌日。仕事場で。 鏡を見ながらのメイク中、隣に座って同じようにしてる裕ちゃんに、昨日聞いたよ、と切り出した。 「あれぐらい、別にフツーちゃうのー?いつも、へその収録でもあんな感じやし」 軽く笑う調子で、裕ちゃんが答えた。お互いに正面を向いたままだけど、視界の端に微かに映る。 「だからさ、うちらは慣れてるけど。中澤裕子ファンの男の子なんて泣いちゃうよ?絶対」 「あー、えぇなぁ。泣かれてみたーい」 「……」 呆れて何も言えないふりで、手早くメイクを仕上げてゆく。 それが伝わったのか、裕ちゃんはまた、笑った。 「圭ちゃんは、最近アタシのこと好きやんなぁ」 椅子から立ち上がったとき、まだ眉を描いてる裕ちゃんに、突然言われた。 「……はぁ?」 とりあえず、思いっきり怪訝そうな顔をしてみせる。頭の中で、いろんな感情が瞬時に渦巻くのが分かった。 そんな自分に疑問を感じたり。 「な。そぉちゃうん?」 そう言うと、手を止めて初めてあたしを見た。座ったままで、見上げる瞳で。 ――だから。分かってて、そういうことするかなぁ。 無意識だったとしてもかなり反則に近い、綺麗な。甘えてないくせに委ねてくる、眼差し。 「んー。まぁね。最近はね」 最近、ってとこに力を込めて返す。 『昔の誰かさんは、そりゃあもう怖かったですから』 『……まだ言うか』 黙ったまま交わせる会話を、そのときは不思議にさえ感じなかった。 知らん顔してさりげなく視線をそらしたけど、きっとバレてる。 そういう、何処か、かなわないなって空気が嫌いじゃなくて。むしろ。 そのまま行き過ぎようとしたら、後ろから声が追いかけてきて。あたしは振り返らずに、それに答えた。 ……最近、って。そういや、いつぐらいからだったんだろ。 最初は確かに怖いだけの人だった。冗談じゃなく。いや、本気で。 けど、まぁ。矢口だって同じだった筈で、それが今じゃあんななんだから。 知れば知るほど――って。そういう人なんだ。きっと。 「ねー、圭ちゃん圭ちゃん」 ……ん。 「後藤。何?」 「や、何でもないけど。なんか今、圭ちゃんすっごい嬉しそうな顔してたよ?」 別になんでもないよ、と。そっけなく答えた。 後藤は、ふーん、って。別に気にするふうでもなく、のほほんとしてて。少しだけ、嘘ついてゴメン、と思わせる。 『あのですねぇ、今日、圭ちゃんとこ遊びに行ってイイ?てゆーか泊めて』 『……いいですよ?』 さっき、顔を見ないまま交わした会話。 約束なんて確かなものじゃなくて、仕事が終わるまでに裕ちゃんの気が変わればそれまでで。無かったことになる。 でも、それでもいいし。理由も要らない。何だっていい。 あたしの、この、いったいいつのまに生まれてたんだか定かじゃない想いも。 それだけで嬉しくなれるなら、このままで。 いつか思い出したとき、優しい記憶だけ残したいから。 今は、この気持ちを。 恋とは呼ばない。 |