Pretender
| あなたは、綺麗だから。 理由なんてそれだけで十分だと思う。 惹かれるのは、他のみんなと同じ。 だから今夜ここにいるのは、あなたの気まぐれの結果。 でも。 くちづけのあと、絡む視線。 それに潜む、たちの悪さに気づく。 「……何?」 「や、何でも……」 微かに笑う、その口元に油断なんかしたら。 「今日な、帰り際に紗耶香とちゅーしてん。せやから」 ――自分ら、あたし通じて間接キスやん? 指先から、血の気が引くような気がした。それとも、心。 冷たく冷たく、感覚をなくして。 だって、それは。そんなことを言うのは。――ルール違反だ。 裕ちゃん。 華奢な肩を、軽く押して倒す。乱暴にしないのは手加減じゃない。力が入らない。 「……そういうこと言う人には、優しく出来ないよ」 「そんな怖い顔しーなや、て」 あたしの手を引く、細い腕。 それにつられて、柔らかく見据える瞳に視線を合わせてしまった。 吸い込まれそうに微笑む、その奥に。 見たことのない、感情が見える。 『本当に欲しいものが、手に入れられない。』 身体をかさねて。研ぎ澄まされる感覚と、麻痺する感情。その、さなか。 なんで。 あたしは、思う。 あなたは、何もかも持っている筈で。 何もかも手に入る。あなたが、望みさえすれば。 なのに、なんで――。 あなたは、綺麗だから。 他に何の理由も、要らない。 今は、夢中になれる時間がずっとずっと続けばいいと思う。 あたしはもう、あなたの言葉の棘も忘れてしまった。 あなたは瞳をきつく閉じて、その色を見せないままで。 ――傷つけた償いに、自分のいちばん脆いところを打ち明けるなんて。 このまま。 胸の痛みも、消せたらいいのに。 そんな願いが、あたしの優しさに変わる。 それに気づいて、あなたは甘く微笑んだ。 切なく掠れる声を堪えることなく。 あなたを傷つけられる人なんて、誰もいない。 あたしを傷つけられるのは、あなたじゃない。 辿り着いた答えを掴むように、シーツを握り締めるその手にかさねる。 あなたは、綺麗だから。 高鳴る心臓が、恋と錯覚させるんだ。 あなたが、綺麗だから。 行き場のない想いから、こうしている間だけ離れられる。 あなたと、あたしは。 愛によく似た気持ちを、抱いている。 |