No no darling



「裕子ばーかっ」

「なんや!?なんかゆーたか矢口?」

細い腕でかけられるヘッドロック。

「いたーいっ!裕ちゃん痛い!いたたたたたた」

「嘘つけぇ、ぜんっぜんチカラ入れてへんやんあたし!」

確かに、それはまるで抱きしめられてるようで。

あたしもあなたも笑顔だからなおさら。



きのうも、おとといも、こんなことしてたね。



「……いいかげんにしーやぁ?自分……」

「裕ちゃんこそ!オトナげないなーっ」

暴れまわって、叫びまくって。肩で息して、二人して。

どうしようもなくはしゃいでる自分を、相手のせいにしようとしてる。

「せやったら。あたしが矢口のゆーことに反応せぇへんかったらえーんやな?」

「んー、まぁ、そういうコト?」

だけどそんなのつまんない。

あたしがそう付け足すより早く、あなたは自分の耳をふさいだ。

「よっしゃ、これで聞こえへんで?矢口のゆーこと、なんっにも」

得意げに胸を張る、そんな様子ってばまるで。

「……コドモみたい」

ぴくり、とあなたは眉を歪めて。怖い怖い目であたしを睨みかけて。

「あー、聞こえない、なんにも聞こえないっ」

くるりと背中を向けてしまった。



「裕子ばーか。ばーか、ばーか」

「はいはい、聞こえませーん」

「……めっちゃ聞こえてんじゃん」

「いいえぇ、ぜーんぜん」

振り向いたあなたは、余裕の微笑み。

「……なんだよもう、ちくしょう!つまんなーい!裕ちゃんのばか!」

「いやー、なんにも聞こえませんー。なんやちっちゃいのがぱくぱくして暴れてるけどぜんっぜん聞こえないでーす」

視線だけで見下ろす、その表情は楽しそうで。

「……」

黙りこくったあたしを、なんやもぉ終わりか?って感じで見てる。



「……裕ちゃん。好き」

目をそらさないまま、呟いた。

あなたの口元からにやにや笑いが消える。

「でも、聞こえてないんだよね。残念だなー」

代わりにあたしが、笑ってみせた。

「おーい。大好きだよ?裕ちゃーん?」

耳に当てた手、じれじれしてるよ。

「今なら、ちゅーとか、してもいいよ?」



コンマ2秒後、あたしは思いっきり抱きしめられて、耳元にキスされた。



「……なんだよもぅ!聞こえないって言ったくせにーっ」

「いや、ココロに聞こえてきてん、矢口の声がな」

愛のチカラっちゅーやつかな。

さらっと、しれっと、そんなこと言ってのけて。

気がつくとあたしたちはまた、笑顔。



腕の中に包まれたまま。

裕ちゃんの声がココロに聞こえたから、言う通りにしてみようと思う。

――『顔、上げて』って。



あしたも、あさっても、こんなことしてようね。



ねっ。