Midsummer



このヒトを好きになるつもりは、別に全然なかった筈で。

なのになんで、いつのまに、こういうコトに。

考えれば考えるほど分からなくなるから、いつもはあんまり考えないようにしていた、そんな理不尽。

「何やの。何、さっきからじっと見てん」

わりと機嫌のいい声でそう問われて、いいじゃん別に見てるぐらい、とはぐらかした。

アルコールのせいで、いつもより更に細く甘い瞳。

それが少し似てるかな、と思って――誰にって――でも、そんなことが理由の全てではなくて。

「な、今、圭坊が何考えてたか当てましょうか?」

何さ。既に酔っ払いと化してる裕ちゃんから視線をそらして、あたしは自分のグラスの烏龍茶をこくこくと飲んだ。

「紗耶香のコト」

……喉から、気持ちのいい冷たさが湯上がりの身体中に染みてく。

「裕ちゃんは紗耶香に似とるなーとか、そういうコトやろ?な?当ったりー」

得意げな子供のような相手に、ハズレ、と即答する。

グラスをそっとテーブルの上に置いてから、裕ちゃんと紗耶香は全然似てないよ、と付け足した。

――だって、紗耶香は。

それから、何故だか楽しそうな顔をしている相手のグラスを奪って、一口頂く。

甘い口当たりの液体は、飲み込む瞬間に苦い本性を表して。喉の奥に引っかかって残る、そんな感じがした。



「そんなら、いーコト教えたろ」

頬杖をついて笑って、反対の手でしっかりグラスを奪い返して。裕ちゃんは言う。

「圭坊も、彩っぺには全然似てへんよ」

静かな声。捕らえて離さない視線。喉元に消えない違和感と熱さ。煽られて上昇するあたしの体温。

……そっか。そういうコト。それが、答え。

手を伸ばしてTシャツの肩を引き寄せる。そのまま、裕ちゃんが目を閉じるのを待って唇をかさねた。



肌にふれると、むやみに冷たくて。それは効き過ぎてる冷房のせいだと気づく。

寒いぐらいにして、それで毛布を被って寝るのが気持ちいいとか何とか。とても27歳とは思えないようなコトを言ってた。そういえば。

――毛布くんの代わりぐらいには、なれるかな。

冗談めかしてそう囁いたら、背中に回された腕に少し力が込められた。

「……もっと、気持ちよく、してや」

瞳は閉じたまま、唇だけで微かに笑う。

弱く掠れた声が頭の中に響いて残る。



唇と、指先で。伝えたい気持ち。伝わる気持ち。

だって耳元にかかる息は、いつのまにかとても、熱い。

「圭……」

あたしの名前を呼ぶ、何かを欲しがるみたいな声。

「……うん」

あたしにあげられるものなら、何もかも望まれるままにしてかまわない。

顰めた眉とか、きつく閉じた目元に滲む涙とか。今だけは他の誰のものでもなく。



あたしは、夏だというのに誰に向かう訳でもない熱を隠し持っていて。

このヒトは、夏だというのに冷たい部屋で誰かに暖められるのを待っていて。



だから。



それに気づいたから。



他の誰でもダメだったんだよ。