Lovely baby



読みかけの雑誌の上に、紗耶香が転がってきた。



……ええと。どういう状況かというと。

ベッドに腰掛けて、こう、膝の上に雑誌を広げて。ぱらぱらと、読んでいた訳だ。

そしたら、隣にいた紗耶香が動いたな、って気配がして。

あたしの膝の上の、雑誌のその上。ごろん、と仰向けに寝転がって、頭を乗っけてる。そういうこと。



「ね、なんかしよ?」

――それが、人の読書を強引に中断させといて言う台詞かい。

とりあえず胸の中で呟いてから、口にするべき言葉を探す。……あぁ、そうやって甘やかすのがいけないんだ、自分。

「分かった。分かったから、ちょっと待っててよ。今、これ読んでるから」

「やだ。待てない」

……。あたしが雑誌に向けてた視線は、そのまま、紗耶香の黒目がちの瞳に向かう。

かけらも悪びれたりしてない、自信満々の。しれっとした、表情。

「せっかく一緒にいるんだからさ、遊ぼうよ」

さらりと言ってのける、そんな言葉も。聞きようによっては、嬉しいのかもしれない、けれど。



「……紗耶香さぁ、さっきまでマンガ読んでたじゃん」

そう。そうなんだ!あたしの部屋に着くなり、買ってきたマンガに熱中し出したのは紗耶香で。

あたしはその間、時間をつぶそうと思って仕方なく雑誌を――。

「あ、もー読み終わっちゃった。だから」

ね?と、相変わらず平然と見上げてくる相手に、さすがに二の句が告げなくなった。

まっすぐに見下ろしたまま――睨んでる、とも言う――あたしは、足を上下にじたじた動かす。

膝の上で、紗耶香の頭ががくがくと揺れた。



「……なんだよぉ」

起き上がった紗耶香は頭を振って、軽く笑った顔を向ける。

それだけでたちまち柔らかい雰囲気を身に纏って――こっちがそれに弱いのを知ってて。

無意識に顔が赤くなるあたしと、意識的に口元を引き締めるあたしと。情けなくうろたえながら、それでも一応、意地を見せたい。

「ったく、なんでそうやって勝手なことばっかり――」

「――いいじゃん」

人の、言葉の端っこを奪って。ダメ押しと言わんばかりに、こんな台詞。



「だってさ、あたしのこと好きなんでしょ?」



覗き込んでくる上目遣い。……なんだかもう!どうしようもない。

「調子に乗るなっ」

ぴしり、と額を軽く叩く。へへ、って笑う紗耶香をそのまま腕の中へかき抱いた。

「で?何して遊びたいわけ?」

もう何でも言って下さいな。そんな思いで、頬をすり寄せてくる紗耶香の御機嫌を伺う。と。

「えーとねぇ……何でも」

悪戯っぽい声が、耳元をくすぐった。

「何しても、いいよ」

くすくす、と含んだような笑みを感じて、あたしの理性と自制心なんて、あっさり陥落されてしまう。



躊躇は、一瞬。

それを振り払うのは、抱きしめる腕と縋りついてる腕の、同じ強さで。



「何、しても?」

問い返す声を、こっそりと形のいい耳に囁く。

「――いいよ」

返事を待たず、腕の中に紗耶香を閉じ込めたままで身体をベッドに沈めた。