Joker



いつからだろう。こんなふうに、お互い分かってしまうぐらいになったのは。



相手の気持ちを先回りして、驚いてる顔を見るのが楽しい。

不意を突かれた素の反応に、得意げに笑ってみせる。

あたしと紗耶香と、ふたりだけで同じフィールドに立つゲーム。

他の誰かとじゃ成立しないルール。今のところは。



紗耶香は、落ち込んだりして泣くのを我慢すると、妙にお喋りになる。

あー、疲れたあっ、とか。意味もなく大声をあげたりしたら、それがサイン。

そういうときには、軽く頭に手を乗せて、『よしよし』って、撫でてやる。と。

あっというまに、頼りない顔になって。ぼろぼろと泣き出す。

――いや、我慢してるの分かってるなら放っとくべきかな、とも思うけど。

でも大抵の場合、ひとしきり泣くとすっきり、けろっとしてる紗耶香だから。

泣いた方が楽ならそうすればいいんじゃん?って。あたしはついつい手を出してしまう。



あたしの方はと言うと、落ち込んだときには黙り込むのが常なんだけど。

なんだか、人に話しかけられて、で何気に会話してるうちに立ち直れちゃうときと。

もう何言われてもダメで、頼むから放っておいてってときと、二種類あって。

自分でも分からないそれが、紗耶香には何だか、どっちか分かるらしい。たぶん。

だから本格的に苛々してるときは近づいてこないし、声もかけようとしなくって。

で、大丈夫なときはもうしつこいぐらい纏わりついてきて、なんとか浮上させようとしてくれる。

紗耶香のくだらない冗談に、あたしは何度も救われた。



そんな、ゲームっていうか何というか、楽しい愛しいやりとりだけど。

勝率はきっと、五分五分よりちょっとあたしの方が上を行っている。

たとえば今日も、頑張り過ぎてる紗耶香に、不意打ちでジュースの差し入れ。

「なんで、なんで分かったのー?」

嬉しそうに笑いながら、どうしても不本意な顔を隠さない相手に、あたしは笑い返して。

本当のところ、少し胸が痛んでいたりも、する。



あたしの方が、分かっているのは。あたしの方が、見つめているせいで。

要するに、ゲームの切り札は紗耶香への恋心。

そんなもの持っているから、こっちが有利なのは当たり前のお話。

これって、ルール違反、かもしれない。

悩み出してから、もうずいぶん経つけれど。

相変わらずあたしは、手の内をばらさないまま。



気づかれてしまえば、このゲームも何もかも、全てが終わってしまいそうで。

――あんまり強いカードって、最後まで持ってると上がれなくなるんだっけ。

トランプで言うならジョーカーの、その想いを。



あたしはまだ、捨ててしまえずに残している。