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「中澤さん!やめてくださぁい!その帽子はチャーミーだから似合うんです!中澤さんじゃ全然――」

「うっさい!一言多いゆーてるやろ!別に被りたないわ、こんな帽子」

ぽい、とピンク色の帽子を圭織に渡す。即座にそれを被った圭織は、「チャーミー石川でぇすv」と物真似を始めた。

「返してくださいよぅ!もう、そんなこと言って、みんなチャーミーになりたいんじゃないんですか?ダメですよ!」

石川は、めげない。何処までも切り返してくる。睨んでやろうと思ったけれど、堪え切れずに笑ってしまった。

頬を赤くしながらも帽子を取り返す石川を、妙に頼もしいと感じた。



「……ダメですよ、中澤さん」

「えぇやんか……別に」

ひそひそと、声を殺して囁きあうあたしと吉澤を、メンバーが遠巻きに見ている。

「ダメですってば。ゆで卵は、黄身と白身を一緒に食べるから美味しいんですよ」

「イヤや、って。白身なんか食べられへん」

周囲の怪訝そうな視線が、呆れた声に変わる。それで、吉澤と二人でニヤリと笑い合った。

何かが、通じる。それがどんなに下らないことでも、その瞬間が楽しめるならいい。この子とは、多分その辺が似ている。



「中澤さんと加護の、関西弁トーク!」

「……なんや。いきなり、何を」

「いいじゃないですかぁ。えっと、いきますよ?関西弁しか喋っちゃダメなんです。――中澤さーん!おおきにー」

「……何がやの……」

結局一人で喋り出す加護を、苦笑いしつつ見つめる。どうにも可愛らしいのが侮れない。

間違いなくオチの付かないだろう話を、それでもあたしは最後まで聞き届ける。



机の上に置きっぱなしにしていたあたしの携帯は、目を離した隙にシールで埋め尽くされていた。

「辻ー!ちょお、待てや!自分……こんなんしたらアカンて、こないだマネージャーさんに怒られたばっかりやろ」

悪戯の主を速攻で咎めると、どこか満足げだった笑顔がしおしおと俯いた。それであたしは、瞬間、怯む。

たかがすぐ剥がせるシールで――でも叱るべき時は叱っとかな――なぁ。

そして、こうやってあたしが怒ってるとこしか、辻の記憶には残らんのやろな、と。

「……でもぉ」

小さく、辻が呟いた。泣き出しそうな眼差しで見上げられて、あたしは黙って続く言葉を待つ。

「これ見たらぁ、中澤さんが辻のこと思い出してくれると思って……」






ぱち、と泡が弾けるように目が覚めた。幸福な夢。それは、つい最近までの現実だったのだけど。

うたた寝をしていたのは自分の部屋のソファで、それにしては似つかわしくない騒がしさに頭の回転が追いつかない。

つけっぱなしのCDがステレオから流れているのだ、とようやく理解してまた目を閉じた。



娘。のベストアルバム。――それだって、すごいこと。三年前の自分に吹き込んでも、きっと信じないだろう。

先のことなんて考えられず、示されたまま走って。必要だから手を繋いで。同じことを、夢見た。

――ちょうど流れ出した『モーニングコーヒー』に、眠りよりも曲の中へ引き込まれてゆく。

なっちが、歌っている。圭織が。明日香が、彩っぺが。そして、あたしが。

どんなに時が経っても、CDの中の声は5人のまま。当たり前のそのことが、ひどく安心で尊く思えた。



戻りたいのではなく。比べられる筈もなく。ただ、その時々で変わっていく歌声。

もっと歌いたい。そう思っていた。もっと、自分の声を残したい。

それでも、こうして――自分以外の声が大半を占める曲でも、愛しさは変わりない。そう思わせてくれるメンバーに出逢えた。

それは、誇り。



そして、数え切れないほどの歌にふれて。気づいた。

自分だけの歌が、きっと在る。ここではない、何処かに。

他の、どんなすごい歌い手でもなく、中澤裕子の声で歌われるのを待っているような。



探しに行こう。いつでもいちばん新しい歌に、希望と共に巡り合って。

いつか。

歌うことが好きで堪らなくて、小さな頃から夢見て止まなかった――その理由が、きっと、分かる。