Don’t worry
| 目を開けたら、ぼんやりと霞んで天井だけが見えた。 真っ白いシーツもブランケットも、どこかよそよそしい。身体に馴染まない。 ――あぁ。ここは、ツアー先のホテル。 熱を出したあたしは、一人隔離されて自分の部屋で眠っていたんだった。と、思う。 時計を見ようと寝返りをうったら、そこに思いがけず人がいたので驚いた。 「あ」 ベッドのすぐそばに座り込んでいたその相手が、顔を上げる。 「……辻?」 「はい」 辻は、読んでいた分厚いマンガ雑誌をばさりと置いて、枕元に寄ってきた。 「ぐあい、どうですか?」 「んー。まだ、ちょっと、あきません」 起き上がろうとしたけれど、ぐらぐらして無理だった。頭が痛い。 横になっているせいで、辻の顔がすぐそばにあって。心配と好奇心と一緒になったような眼差しで見つめられて、少し戸惑ってしまう。 「……自分、なんでこんなとこ、おるん?」 「あのぉ。誰も、いないから」 へへ、と辻がいつもの照れ笑いを見せた。 ――そぉか。タンポポとプッチモニは、別で入ってる仕事が。で、なっちは確か、ラジオの収録が。 それで、風邪引きのあたしのとこまで来てしまったというコトか。なんやよく分かるような……分からんような。 「なかざわさん、くすり飲みましたか?」 「……いえ、飲んでません。薬、キライ」 たはは、と力なく笑ってごまかす。我ながら情けない。13歳の目には、こんなあたしはどう映るのやら。 「くすり、飲んだほうがいいと思うんですけど」 真面目に諭されて、仕方なく返事をした。はぁい、と。仰向いて。 いつもならば『大人は薬飲まんでも治るんやで』とか適当に言いくるめるトコやけど――アカンやんそれ――今日はそこまで口が回らない。 「じゃ、マネージャーさんに薬もらわな、な。内線電話、かけれる?」 なんとか身体を起こそうとしたとき、辻は、ぱっと立ち上がった。 「辻、もらってきます」 そう言って、一目散って感じにドアを出て行く。何故だか妙に嬉しげで、微笑ましかった。 ――って。鍵。……持ってったみたいや、な。 あたしは安心して、ゆっくりと目を閉じた。 「……なぁ」 「はい」 身体を起こしたあたしは、すぐそばに立ってる辻を少し上目づかいで見ながら問う。 「自分、家で薬飲むとき、何と一緒に飲んでるん?」 「えっと。オレンジジュースとか」 「……あー」 「でも、なかざわさんは、あまいのが好きじゃないと思って」 「……うん。そぉやな。それは、間違ってないんやけどな」 ベッドサイドのテーブルの上には、風邪薬と共に、辻が自販機で買ってきてくれた缶のウーロン茶。 あたしは弱く笑う以外にない。 「あのな、辻。風邪薬飲むときは、お茶と一緒に飲んだらアカンねんで」 「……え」 「よぉ効かへんようになるんやって。だから」 「……知らなかったです」 やっぱりというか何というか、辻はしょんぼりしてしまって。あたしは出来るだけ優しく言って聞かせる。 「でも、それ、後でよくなってから飲むから。冷蔵庫、入れといてくれへん?」 「――はいっ」 辻は、使命感に燃えた目をして缶を手に取った。……立ち直りの早さは双子座O型の共通点かもしれない。 「ほんでな、冷蔵庫の中にミネラルウォーター――って、分かる?水。入ってると思うから、それを、ください」 一言一句、丁寧に区切るあたしの言葉に、辻はこくこくと頷いてみせる。と。 「……なかざわさん」 その小さな手のひらが、そっとあたしの額にふれた。 ひやり、と冷たい感触に、一瞬だけ目を細める。 手のひらはすぐに離れて、心地よさが残された。えへへ、と笑う辻と目が合う。 「はやく、熱が下がりますように」 「……はい。ありがとう」 あたしも、笑う。照れくさくて。――なんや、嬉しくて。 |