Crossover!



――今日も、矢口さんに『可愛い』と言われた。

いや、面と向かって直接言われた訳じゃないけど、撮影で一人ずつのショットを撮ってるときに。

『うぁー、よっすぃーカワイイ〜 v v vたまんねー!』

……って。あの、よく響き渡る高い声が、スタジオの隅から、しっかり聞こえてきてた。

自分だって、撮影用の衣装のめっちゃ可愛いヤツ着たまんまだったのに、な。



うん。今日も、矢口さんは可愛かった。タイミング逃しちゃって、あたしからは言えなかったけど。

「……あー……」

もったいないコトしたなぁ、と今さら思う。あたしは、あたしが『可愛いですね』って言ったときの、矢口さんのリアクションが大好きだ。

こう、上目遣いだけじゃ足りなくって、あたしのこと見上げてる角度で。その瞳が、ふにゃあ、って溶けそうに笑う。

『なんだよ〜、よっすぃーにそんなこと言われたらめっちゃ照れるー!あー、ちょっとダメ、うわ、恥ずかしいぃ!』

とか何とか。で、あたしのこと叩くフリしたり、その場でくるくる回ってたり、蹲っちゃったり。

それはもうホントに、どうしたらいいのか分からないぐらい可愛くって……それでいつも、どうにも出来なかったり、して。



矢口さんを見ていると、可愛いなぁ、って思う。それで、気がつくと、矢口さんのことを見てる。で、また、可愛いなぁ、って思う。

このところずっと、そんなことの繰り返しだ。やめられない。でも、それ以上なんとかなる訳もない。

もっと仲良くなりたいなぁ、と思うのは、実は今に始まったことじゃなくて。でも。

――先輩後輩の壁とか、ユニットが別だとか。ちょっとした年齢の差も。飛び越え方が分からないまま、今も。

うだうだ考えながら、自分の部屋のベッドの上で転がるしか出来ない、あたし。

「どうしたらいいんだろ……」



その答えは、意外なところから見つかった。

翌日、見慣れていると言えばそうかもしれない光景に。



「うわぁ!裕ちゃんっ!」

「っしゃあ、捕まえたで矢口、もー離さへんで?」

「やーっ、裕子やめろぉっ!加護が見てる!12歳がーっ」

「えーやんか、加護も後でな?さー矢口、じっとしときっ。すぐ済むからっ」

あああ、なんて見てる間に。中澤さんは、矢口さんをしっかりとホールドしたまま、その頬にキスをした。



――いーなぁ、あーゆうの。

ふと、そう思った。って!別に別に、そういうコトをしたい訳じゃなくって!ただ、仲良くっていいなぁって思っただけで!

まぁ、でも、そのとき初めて気がついたのは、中澤さんと矢口さんも、確かもともと先輩後輩だったんだっけ、ってこと。

ユニットだって別だし(あるけど非公認だし)、年齢の差なんか、えーと……えーと。うん。

なのに、ああしてめっちゃ仲良しなんだから。だったら。



……あたしも、あんなふうにしたら、いいのかも。



ふむ、と一人で納得したあたしの目の前に、いつのまにか、矢口さんがいた。

「よっすぃー!おはよっ!」

「おはようございます、矢口さん」

見上げてくる、いつもの笑顔。肩越しに、中澤さんが加護に『おはようのキス』を迫っているのが見えた。

「……よっすぃー?どうした?」

「あ?いや、えーと……」

真正面で固まっているあたしを、矢口さんは不思議そうに見つめる。

昨夜の今日で、さっきの今だから。頭の中で、ぐるぐる回る。

「なーんだよぅ。どーしたんだよぉ?」

「やー、別に……なんでも、ないんですけど」

楽しそうに覗き込む瞳につられて、あたしは、へらり、と笑ってしまう。

矢口さんが小首をかしげてる仕草が可愛くて、何か、ふっきれた。

「んー?」

「えっと。あのっ」

ぎゅっ、と――や、正確には『がしっ』てぐらいの勢いだったのかも知れないけど。あたしは、矢口さんの手をとった。

右手に左手。左手に右手。矢口さんの、ちっちゃい手を。

「……あらー。なになになになに?」

「あー……えーと……」

どうしよう。言葉が見つからなくて。そのままで。

矢口さんが、『せっせっせーの、よいよいよいっ』とかって、子供が遊ぶみたいに繋いだ手を揺すったりするから。余計に何も、まとまらない。



――ただ、もっと、仲良くなりたいだけなんです。



「ちょっとー。よっすぃー!矢口、なんかちょっと恥ずかしいんですけどっ。ねー。いやぁー」

目の前でじたばた暴れているこの人に、たったそれだけのことが、何故か言えなくて。

「なんなんだよぅ!矢口と遊びたいの?てゆーかコレ、矢口で遊んでない?ねぇっ!」

少し赤くなってるように見える頬に、キスなんか出来る筈もなく。



どうしていいのか分からないまま、それでも繋いだ手は離したくないな、と思う。