Close to you



2年前。緊張と怖いのと半々で、ドキドキしながらメッセージカードを渡した。

1年前。少しずつ好みが分かってきてて、プレゼントを選ぶのが楽しかった。

矢口の、6月19日の思い出。



今年はこうして、一緒に過ごせるんだね。



「なんや、矢口。顔、緩みっぱなしやで。さっきから」

缶ビールをテーブルに置いて、裕ちゃんが目を細める。

そんな顔して、人のこと言えないじゃん。

「や、なんかね、不思議だなーとか思ってた」

「……何がやの」

ふ、と睫毛を伏せて笑う。細い指で、前髪をかき上げる。

テーブル越しに、綺麗な、綺麗な裕ちゃん。

「だってまさかさぁ、当日一緒にいられると思ってなかったもん」

「なんで?えぇやん、どうせ誰もトクベツなことしてくれる訳でもないし」

ちょっと投げやりに聞こえなくもない、そんな台詞。

それでも少し、調子に乗りたいな。矢口としては。



……だいたい、今日、こうしてるのだって。



『ねぇねぇ裕ちゃん、15日の夜ってなんか予定ある?』

『15日ー?待って。……あー、ラジオの撮り』

『そっかぁ。ん〜、どーしよー!』

『……何が?』

『裕ちゃんの、誕生日のお祝い!』

『あぁ。なんや、矢口祝ってくれるん?嬉しー』

『うん。でね、最近、仕事とかでも一緒じゃなかったりするから。予定空けといてもらえたらいいなぁ、なんて』

『せやったら、19日でえぇやん』

『……え』

『あかんの?タンポポ?』

『うぅん、大丈夫だけど。ホントに?いーの?』

『いいも何も。まぁ、どーせな。暇や、ちゅーことやし。矢口が一緒にいてくれるんなら、それはそれで』



……一言一句カンペキに覚えている自分の記憶力は大したモノだと思う。

この数日間、何度も何度も思い出しては幸せな気持ちに浸った。

だってさ、こっちはいちおう気を使って、当日誘うのは避けた訳なんだけど。

なのに。ねぇ?



「おーい。おーい。矢口ー?戻ってこーい」

は、と我に返ると、裕ちゃんはだいぶご機嫌で。ほろ酔い加減、て感じになってた。

「ホント、楽しそうだよねぇ」

これ以上飲ませると厄介なのは分かってるけど、さすがに今日は。誕生日ってことで、見守っていよう。

「あー、楽しいさ!」

ぱき、と。裕ちゃんの指が、新しくプルトップを開ける。

「どぉよ?27歳」

「ゆーても、別に、急には変わらへんと思うけどな」

くうっ、と。缶ビールを呷る、その、姿。

……うん。

変わってほしくない、と思った。



厄介でも何でもいい。酔っ払って踊らされてもいいや。

矢口の知ってる裕ちゃんで、そのままそこにいてほしい。

27歳の裕ちゃんは、矢口より10コも年上の、大人の女の人。

だけどそんなこと、感じさせないで。



「矢口?」

お酒のせいで潤んだ瞳。蕩けそうな視線が向けられる。

そうして、その両腕をあたしの方に、すっと差し伸べて。

「おいで」

って。そう、呼ばれた。



矢口。

矢口。

そばに、おいで。



迷わず、飛び込んだ。腕の中に。

勢いよすぎて、裕ちゃんが少し後ろに仰け反って。でもそれでも、しっかりと支えて抱きしめてくれる。

お酒の匂い。裕ちゃんの匂い。知ってる温かさ。知ってる柔らかさ。

何ひとつ、なくしたくない。だから。

きっとどんどん素敵になってく裕ちゃんに、ずっと負けないでついていきたい。

だってここまで、やっと近づけたんだから――。



来年は、どんなふうに今日を思い出すのかな。

そのときもこうして、腕の中にいられたらいいな。

今よりもっと、スペシャルな気持ちで。



頑張ろうね、裕ちゃん。