Baby, don’t cry



大切にしたい。守りたい。誰かが後藤を泣かしたら、きっとそいつを許さない。

いつも、いつでも、笑っていてほしいと。そう願うのは、心から。

だけど、たまにね。

ちょっとだけ、突っついて苛めてみたくなるのも、本心なんだよね。

あたしの言葉でどれくらい傷つくのか、なんて。確かめてみたくなる。

矛盾した、この気持ちがもしも、『好き』とかそういうものなら。

何も考えずに突き進んでみるのも、いいかもしれない、じゃない?



「後藤?」

呼びかけたら、ぱち、と目を開けた。

「なんだ、起きてんじゃん」

腕を伸ばして、人差し指でおでこを突つく。何が嬉しいんだか、にこぉ、と後藤が笑った。

「眠いんだけどー。市井ちゃんと一緒だから、なんか眠れない」

……そんなのお互いさまだよ。無防備な笑顔に、心の中で呟く。

久々の貴重なオフ。約束したのはいいけど、二人とも外に出る気力がなくて。

悪いと思いつつ後藤に家まで来てもらって、結局ベッドの上に転がってるだけ。

絵に描いたような昼寝に、入ろうかな?入ったかな?って、そんなタイミングだったのだけど。なんとなく。



そっと、抱き寄せる。目を閉じる、従順な後藤。惹かれるまま、額にキスした。

とりあえずそれ以上のことをしないでいると、不思議そうにこっちを見たりして。



ただ、気持ちよさそうな。罪の無い、子供の顔。

ねぇ、だから、あたしのことどう思ってるんだか、正直よく分からないよ。

『好き?』って聞いたら間違いなく『うん』って答えてくれる筈で。

だけどもそれを、素直に聞けないあたしを、知ってる?



「……ね、後藤さぁ、もしあたしがいなくなっちゃったらどうする?」

後藤が、少しだけ目を大きく見開いた。言われたことが飲み込めないふうに。

唐突なこと言ってるって、それぐらい自分で分かる。

こんなふうに、誰よりもそばにいて抱きしめられてる相手にそんなこと聞かれたって、確かに困るって。

「市井ちゃんが?」

まっすぐに見つめてくる視線をそらさない。まっすぐに見つめ返す。

「そう。もしも、だけどね」

あたしの背中に回されてる、後藤の腕。その指が、きゅっ、とシャツを握るのを感じた。

「えー、市井ちゃんがいなくなっちゃったらー?……やだ」

唇を尖らせてそう答える後藤に、あたしは、ふっと気を緩めて笑った。

「やだ、じゃなくってさぁ。どうするか、って聞いてんの」



「えっとねぇ、じゃあねー、探す。市井ちゃんのこと、いっしょうけんめい探すと思う」

「探しても、見つかんなかったら?」

「えー、TVとかでねぇ、『市井ちゃん知りませんかー』ってやるよ?あ、そうだ、あれ出る。『バラ珍』」

「……おー(それはヤだな)。でも、それでも、出てこなかったら?」

「それでもー!?そしたらもう、仕事とか全然やんないで、市井ちゃんの行きそうなとことか考えてー」

「で?」

「考えて。いろんなとこ、行って。いっぱい、いっぱい、いっぱい、探して……」



後藤の瞳に、じわり、と涙が滲むのを見てた。

それがあたしが望んだことだって。ちゃんと分かった。



「……やだよぅ」

さっきまで笑ってた唇が、頼りなく震えて。あっという間に、どうしようもなく悲しい表情。

ぽろぽろと零れてゆく涙に責められるようで、見てられなくて、抱きしめた。

強く、強く。手放しで泣き出すその声を、直接身体に感じるくらい。

「……ごめん」

耳元に、そっと。息苦しくなりながら、それだけ呟いた。後藤は、安心した子供みたいに泣きじゃくる。

絶対的な意志を持って、その腕はあたしを離すまいとしていた。

「やだよ……いなくなっちゃ、いやだっ……市井ちゃん、市井ちゃんが……」



市井ちゃんが、好きなんだよ?泣き腫らした目で、そう訴えてくる。

うん、分かってたのにね、ごめんね。あたしは髪を撫でて、頬にお詫びのキス。

ねぇ、市井ちゃんは?真剣な眼差しで、あたしのシャツを握り締めたまま。後藤が問う。

……あたしは。ゆっくりと深呼吸して、好きだよ、と言った。



「じゃあさ、市井ちゃんはどうするの?あたしがいなくなっちゃったら」

すっかり落ち着いた頃になって、思い出したように後藤が言った。

『探してくれるんだよね?』って期待に満ちた顔して。

「そりゃあ……探すよ」

さすがにまた泣かせる気にならなくて。やんわりと、そう答えた。

別に、気を使っただけ、じゃないけどさ。

「探しても、見つかんなかったら?」

……おい。



「謝ったじゃん、さっきのことは」

「違うよ、ちゃんと言ってほしいのっ」

「……探す。見つかるまで探すってば」

「なんか心がこもってないよー」

「るっさいなぁ。だいたい、すぐ見つかるよ、後藤なんか」

「あ、ひどーい!分かんないじゃん、そんなのさぁ!」



まったくもう。苛々して、思い通りに出来なくて。

こんな気持ちにさせる、目の前の相手が、今、自分の前から消えてしまったら。

絶対に見つけ出す自信はあるけれど、それでももしも。

思いつく限りの場所を走り回って、声の限りに叫んで、それでも後藤を見つけられなかったら。



「……市井ちゃん?」

後藤の怪訝そうな顔が、ふわりと霞んで見えなくなった。