Afterschool



窓から見える夕焼けが、文句なしに綺麗だった。

長い廊下。並んだ教室。静まり返った放課後。

学校って、どうして何処もこんなに同じような造りなんだろう。

雑然とした撮影現場から少し離れて、あたしは一人で校舎内を歩き回っていた。



――通ってたとこに、似てるよ。

こうして制服なんか着てると、ごく自然に景色に溶け込めてしまえる気がする。

たとえばありふれた高校の、ありふれた学生に。

時間の流れが微妙に捩れるみたいで、少しだけ眩暈がした。

廊下の突き当たりに近い場所に座り込む。

教室の戸に背中をもたれて、窓から夕陽を眺められる向きで。

自分の撮り分が終わった気楽さのせいか、感傷的な気持ちに流されてゆくのが分かる。



懐かしさは、きっと離れていた年数に比例しているだけで。

――うん。裕ちゃんの方が、よりいっそう懐かしがってたし。

あたしだって、普通に生活してたってもう高校とは縁のない年齢なんだから。

だから。――でも。何故。息が詰まるような気持ちになるんだろう。

『学校』。

もう必要ないんだと自分で決めた場所に、こんな形で再会するなんて思ってなかった。

膝に顔を埋めて、目を閉じる。遠くで、ぱたぱたと足音が聞こえた。



「圭ちゃーん。おーい」

駆け寄ってきたのは、ジャージ姿の紗耶香だった。

「お。終わった?」

「んー、やっと。あとなっちとカオリだけだって」

解放感に満ちた笑顔。あたしの隣に腰を下ろして、疲れたぁっ、と伸びをして。

「何してたの?こんなとこで。……あ、うわぁ……」

視線をまっすぐ窓の外に向けて、空を見つめる紗耶香。凛々しい横顔を照らすオレンジ色。

「キレーだねぇ。なんか、浸っちゃうねー」

……何にだよ。笑うあたしに振り向いて、や、でも、圭ちゃんそうじゃないの?なんて言うから。

「いや、……うん、まぁね」

嘘をついても仕方がない。ぼそぼそと、考え事を打ち明けた。

――学校って久しぶりだな、とか思ってさ。なんか懐かしいっていうかさ。

『うん』とか『ふうん?』とか、相槌を挟みながらおとなしく話を聞いてくれる紗耶香。

そうして、その頭がゆっくりと、あたしの肩にもたれかかってきた。



何も言わなくても。ただ、その重さだけで。温もりだけで。

紗耶香がこうしていてくれるのなら、たぶんあたしは。



そのまま、しばらくのあいだ二人とも黙って茜色の空を眺めて。

「……もし、普通に高校とかで逢ってたら、どんなだったんだろうね」

「娘。じゃなくって?んー……」

どちらからともなく話し出す。

「うん。だから同じクラスとかでさぁ」

「そうだねぇ……って、紗耶香とあたしが同級生な訳ないでしょ」

「あ、そっか。圭ちゃん先輩じゃん。うわ、怖いかも」

「よく言うよ。紗耶香なんか絶対ナマイキな後輩なんだよ、きっと」

お互い勝手に思い描いては、顔を見合わせて笑う。

――ただ。普段ほとんど気にならない、年の差3つって。

本当なら卒業で入れ替わりで、きっと出逢うことはなかった筈の。



紗耶香。



途切れた言葉が優しい。

思っているのは同じことだから。

ここにいる不思議。一緒にいられる現実。

こんなふうに、寄り添って笑い合える奇跡――。



「娘。になれてよかったよね」

「……ホント、だよねぇ」



そろそろ戻ろうか、と。立ち上がって、歩き出そうとして。手をつなぐ。

軽く力を込めると握り返してくる、そんな些細なやりとりが愛しくて心地いい。

他の誰とも分け合えない想いに、身を浸して。



ここにいることに、何の不安も感傷もないよ。



窓の外、暮れなずんでゆく夕焼け空に気の早い星がひとつ。

あたしは、ずっとこの手を離すことのないようにと祈った。