Adolescence
−4−



顔が、上げられない。



さっきからずっと、あたしはベッドの上で体育座りなんかしちゃってて。組んでる腕の間に顔を埋めたまんまで。

そろそろ肩が凝り始めてて、首も痛くなってきてるんだけど。



嵐のような衝動に身を任せて、そこから放り出されてしまえば。かける言葉のひとつも見つけられない自分。



『ごめん』って何度も口をついて出そうな言葉を堪える。謝ることじゃない――と、思いたい。

楽になれるのは自分だけのような気がして。梨華ちゃんには何の解決にもならないような気がして。

じゃあ、何て――『大丈夫?』とか。……なんか、やらしーじゃん。や、心配っちゃそうなんだけども。

そういう気遣いの出来ないほど無神経じゃないんだけど。なんか。

でも、でも。『好きだよ』とかそういうのは、もっと反則な気がするし。嘘っぽくって嫌だ。こんなに――本当なのに。



あー。もう。

こんなに、本当に好きで。出来るなら謝りたいけど悪いことじゃなかったよねって確かめたくて、とにかく心配で。

そんなんで何て言ったらいいのか分からなくって顔も見れなくて、でももう伏せってるのも苦しくて限界っ。

こっそりと視線だけ上げて、やっぱりさっきから無言のままの梨華ちゃんの様子を伺う。と。



元通りに服を身に付けて、すっかり氷の溶けたアイスティーのグラスに口をつけてたりなんか、していた。



……ものすごく複雑で何とも言いようのない気持ちになって、そのまま固まる。

気配を感じたのか、ふっとこっちを向いた梨華ちゃんと、ぱちりと視線が合った。

「のど、渇いちゃった」

えへへ、って聞こえる笑いを含んだ声。いつもの、梨華ちゃんの。



――なんか。なんだかっ。



あたしはもう何も返せなくて、また、顔を伏せる。

「……よっすぃー?」

状況を一切無視した丁寧な発音で呼ばれたけど。近づいてくる気配もしてるんだけど。

でも、絶対に顔上げてやんない、なんてあたしは思ってる。



そんなこと、思ってても思ってるだけ無駄だけど。

だって、梨華ちゃんの頭があたしの肩の辺り、もたれかかってきてる。

そっとふれてる、それだけで信じられないくらい暖かい。

「……う゛ー」

自分の気持ちそのまま、情けない声が唇から漏れる。

ゆっくりと視線を上げれば、すぐ横には思ってた通りの梨華ちゃんの微笑み。

「大丈夫?ひとみちゃん」

逆に、心配されたりして。ほんっとに、人の気も知らないで。

なんだか悔しいよ、もう!って、あたしも笑い返そうとした。



けど。



柔らかく微笑んでる梨華ちゃんの、まだ赤い瞳。

そこにもう一度、涙が滲んで――あ、と思ったときにはもう、零れ出していた。

「――っ」

あまりの不意打ちに、あたしは息を飲んで固まる以外出来ない。

そんなあたしの様子を見て、梨華ちゃんはやっと自分の異変に気づいたみたいで。

「あ、あれ?」

指で頬を拭ってるその間にも、涙はぽろぽろと溢れて、伝う。



――って!神様ーっ!



心で悲鳴をあげて、頭の中は真っ白で。

「うっ、うわっ、梨華ちゃん!ゴメン、ほんと、マジでゴメンっ!」

倒れ伏すように、抱きしめる。

「違う、違うの――」

梨華ちゃんが首を振って何か言ってるけど聞こえない。



それから、『好きだよ』って言えるようになるまで長い長い間。

梨華ちゃんのことを、ただ、ぎゅっとぎゅっとしていた。