A cold night
−2−



シングルの部屋なので、必然的に一緒のベッドで眠ることになるんだけど。それは何も問題じゃないんだけど。

いざブランケットを捲くって潜り込もうとしたそのとき、はた、とあることに思い至って手を止めた。

「……後藤ってさ、寝相悪い?」

「圭ちゃんよりは、悪くない」

後藤は普段と全く変わらない口調で、しれっと答える。たぶん本当にその通りなので、あたしは苦笑いしか出来なかった。



そう広くないベッドの中では、いつにない至近距離。二人して、シーツの冷たさに耐えるように、しばらく固まっていた。

あたしは天井を見つめたまま、出来れば早く眠りたいな、と思う。

それは、なかなか寝つけそうにないな、と思うことの裏返しだった。

すぐそばに、後藤の気配。体温とか匂いとか、いつもは微かにしか感じない、気にも留めないもの。

いつより、近い。



『風邪ってさ、もう大丈夫なの?』

『もう、熱出たりとかしないよね』

さっきの後藤の言葉をなんとなく思い出してるのは、真意が図れなかったせいだ。たぶん。

あたしにとって後藤は、そういう子なのだけど。思考回路が読めなくて、何処からその言葉が出てくるんだろう、みたいな。

ただ、もしかしてずっと確かめたかったんだろうか、と思って――そう思ったら、何も言えなくなった。



隣で、後藤が寝返りをうつ。端正な寝顔。少し遅れて髪がはらり、と頬にかかる。

あたしは視線だけじゃなく、身体ごと向き直ってそれを見ていた。ぼんやりと。



どうしよう。気づいてしまった。二人分の、覚醒している意識。

眠れない。眠ろうとなんか、してない。お互いに。



手を伸ばした。上掛けから出して冷たい空気の中で、後藤の頬にふれる。

ほとんど麻痺している感情のせいで指さえも上手く動かせなかったけれど、その髪をそっとかきあげた。

後藤がふと目を開けて、一度だけ視線が合って、それからゆっくりと瞼を閉じる。長い睫毛を見つめながら、顔を寄せた。

こつり、と額がぶつかる。そして唇。

そのとき初めて、後藤の手があたしの腕を掴んで、強く引き寄せた。



……大丈夫。

呟きは、どっちの声だか分からないぐらいに不確かで、根拠もなくて。

でも、だから、抱きしめるのも熱くなるのも止めなかった。

名前なんか呼ばない。相手が誰だかちゃんと分かってる。他の誰かじゃ、きっと、違う。



ふれあう肌の温かさに、訳もなく安心した。寒い夜に、そばにいられる相手。恋じゃない愛しさで。

誰かを失うことに、たぶんもう耐えられない。もっと強いと思っていたのに。そうだったならよかったのに。

あたしも、後藤も。



弱い気持ちを、今夜の記憶に閉じ込めておけたらいい。

明日の朝に目が覚めて、繋いだままの指先を見ても、何もかも思い出せないぐらいに。