All I need is love
−Wheel of Fortune−
| 娘。を卒業するのは、新しい家に引っ越すときの気持ちに似てる。 毎日を過ごした場所。そんなに遠くなってしまう訳でもないのに、もう帰ってくることは無いんだ。 例えるなら今は、荷物をすっかり纏め終えて、やけに広々してしまった部屋に一人で佇んでる心境。 ――だから、娘。はみんな家族みたいだって思うのも、当然といえば当然の表現なのかな。 愛という字を、思い出してる。 時々、後藤は圭ちゃんがいてくれないと何も出来ないかもしれないと思った。 本当に時々、一緒に過ごした3年間で数えるほどのことだけど。 そして、それよりもっと少ない回数、自分でも確かめようのない覚束なさで何度かだけ、圭ちゃんのことが鬱陶しくて堪らないと思った。 びっくりするのはその両極端な気持ちの振れ幅じゃなく、それを口に出して伝えても何一つ傷ついたりしないということ。 圭ちゃんと後藤はきっと、そういう二人になってしまった。これ以上甘くも優しくも、冷たくも辛くもならない関係。 そんな手放しの安心感を、17歳のあたしは他に知らない。 「もしもーし」 『もしもしー。何、ごっつぁん』 「ん、や、別になんでもないんだけども」 『なんだよ。今帰り?』 「そう。ねぇ圭ちゃん、あのね」 『はい、なんでしょう』 「えーと。好きだよ」 『うん、知ってるよ?』 それだけ、と呟いて、尚も怪訝そうに問いかけてくるのを適当にごまかして電話を切った。 掛け値なしにそれだけで用件は済んでしまったんだけど、メールでフォローしておいた方がいいのかな。 こっちが送るより先に、向こうから心配そうな文面が届いてしまう気もする。 液晶画面に文字を打ち込みながら、言い訳のように浮かぶ言葉は一つだけ。 明日、会えるね。 |