Can’t give you anything(but my love)
−Wheel of Fortune−



笑顔が好きだった。

後藤はほんとに子供の顔して笑う。

世界中の誰に見せても「可愛い」って言わせる自信がある――って、あたしが威張っても仕方ないんだけど。

子煩悩な親かペット自慢の飼い主ぐらいの勢いで、そう思ってる。



笑顔が好きだった。

だから、翳ればすぐに気づく。

もともと負の感情をあまり表に出さない後藤だけど、それでも緊張し過ぎてたり、具合が悪いときなんかは分かってしまう。

そのぶん余計に心配で、やっぱり過保護な親か飼い主みたいに気を揉んでばかりいた。



笑顔が、好きだ。



ケメケメ言いながら傍らを擦り抜けようとする、その腕を掴んで引き留める。

最近の後藤は、かまって欲しいときのアピールが上手くなったかもしれない。

「ごーっつぁん」

「なーにぃ、ケメコ」

「今日、頑張ろーねぇ」

「うん」

「好きだよ」

「あたしも好きー」

よし、と手を離したら、えへへぇーと笑って歩いて行った。

しばらく見送ってから、背を向けてメイクを始める。

何気ない会話、他愛ないコミュニケーションの、かけがえのない愛しさ。



笑顔が好きだった。

たぶん、この先もずっと。

それを守るためなら、なんでも――大抵のことは――出来るだろうな、なんて。

自分でもどこまで本気か判断しかねる、妙に熱っぽい思いが頭を掠めたりもする。

そんなこと、後藤はきっと知らないし、知らなくていいんだけど。どうかな。

気づいてても知らん顔してそうだから分からない。どっちにしろ、その上で平然としててくれればいい。

あたしのこの気持ちが、後藤にとって、ごく当たり前の幸福でありますように。

鏡越しに遠ざかる背中に、らしくもない切実さで願いを込めた。