Hedgehog’s dilemma
−Wheel of Fortune−



――『寂しい』って言ってくれた。



やぐっつぁんは、よく喋る。

よく笑い、よく叫んで暴れて、本当によく動く。おそらく後藤の10倍ぐらい。

やぐっつぁんを見てると、だから、なんだか自分があんまり頑張っていないような気分になる。

ハムスターがリスの移動速度に追いつけないようなものなんだけど。

動物に例えるなら、どっちかっていうとやぐっつぁんがハムスターであたしがリスっぽい筈なのに、なんて思うのはさておき。



あたしは自分のことをキライじゃないというか、はっきり言ってかなり好きなんだけど。

やぐっつぁんを見てると、あっちの方が魅力的だぁ、と単純にそう思う。



いろんな話をした。今回のことについても。

やぐっつぁんは何度か泣きそうになってた。

あたしはそれを見て泣きそうになった。



やぐっつぁんは、ちっちゃい。

羨ましいなって、ずっと思ってた。憧れてた。きっと。

だってヒールの高いクツ履き放題だし。好きになる人みんな、自分より大きいってことでしょ?いいよねぇ。

たまに、そういうことを直接口にしてみたりもして。

その度に、『えー、ごっつぁんの方が全然いいよ〜!っていうかそのスタイル、くれ!』って言い返されたりして。



少しずつ、分かってきてる。



やぐっつぁんは、テレビやラジオや雑誌や、要するにメディアの中で時々、後藤のことを話すことがある。

あたしに対してじゃなく、不特定多数の人に対して、『ごっつぁんは○○なんですよー』って言ってたりする。

そういう場面をたまたま見たり聴いたりすると、あたしはすごく不思議な気分になる。

やぐっつぁんの口から語られる『ごっつぁん』は、なんだかとても可愛くて、一生懸命な子だったりするから。



分かってる。



あたしは自分のことを好きだけど、やぐっつぁんには何故だか、もっと魅力的なあたしが見えてるんだ。

やぐっつぁんもたぶん自分のことを好きだけど、あたしには何故だか、もっと魅力的なやぐっつぁんが見えてるんだ。

思ってるより、ちょっと余分に素敵なお互い。



分かった。



でも、それを。

気づいたところで、口に出して言うのは照れくさいっていうか、なんだかあんまり意味がないね。

だからやぐっつぁんになりたい、とか。だからごっつぁんになりたいんだよ!とか。キリがない。噛み合わない主張。

最後まで、きっと。



――ねぇ?と、思うんだけど。



「は?」

やぐっつぁんは、人差し指を立てて、マンガみたいに、ちちち、と振った。

「甘い甘い、ごっつぁん。最後?最後って言った?今。悪いけど、矢口全然最後だなんて思ってないから」

相変わらずの早口で、後藤の一言をぐるりと取り囲んで包み込む勢いの言葉たち。

「言っとくけど、ごっつぁんが娘。辞めたとしても、矢口はいつまでーもごっつぁんのお姉ちゃん気取りだからね。そこんとこ覚えといて」

それは耳に心地よくて、遮る気概なんて全然持てない。

「だから、有り得ない。最後?何それ?って感じ。分かった?……なんてさぁ、矢口が勝手に思ってるんだけどね。まぁいーじゃん、ねぇ」

頬が赤くなりつつあるのは、さすがに自分でも気づいてるんだと思う。たちまち荷物をまとめて、ドアの方へと身を翻してしまって。

「んじゃ!お疲れ!愛してるよーごっつぁん、また明日!――バイバイ!」

ありったけの別れ際の挨拶を軽々と放り投げて、ちっちゃな身体は開いたドアの向こう側へ逃げて行った。

あたしはやっぱりその何分の一かの『バイバイ』しか返せず、とっくに閉じたドアに向かって手を振ってみる。



やぐっつぁんは、とても、元気。