You’re my only shinin’ star
−Wheel of Fortune−
| その瞬間、砂時計が時を刻み始めた。 さらさらと止めようもなく流れ出す。 後藤が娘。のメンバーでいられる、限られた時間。 5期の子たちとは、話をすることが多くなった。思い出を作りたいって、同じ気持ちでいてくれるのが嬉しい。 加護と辻は、ちょっとだけお姉さんになった。零れる砂の音がそうさせる。まるでいつかのあたしのように。 よっすぃーと梨華ちゃんは、前とあんまり変わらない。そのままの空気で、最後までいられたらいいな。 圭ちゃんとカオリとやぐっつぁんは、出逢った頃の話を不意打ちで語るから、泣かないようにするのが大変。 そして。 「後藤ー。今、平気?手ぇ空いてたら安倍呼んできてくれる?どこ行ったんだか」 コンサート前の楽屋裏、忙しなくあちこちを行ったり来たりしてるマネージャーに掴まって、あたしはお使い事を引き受けてしまった。 メンバー13人もいると、何もかも全部スタッフ任せって訳にもいかない。出来る範囲のことは、自分たちでやらなきゃねぇ。 急ぎですか?って聞いたら「そうでもない」って言われたんだけど、とりあえず小走りで駆け出す。 「あ、ごっつぁーん!なっちならねぇ、客席から見え方確かめに行ったっぽい!2階かもしれない!」 ミニモニ。のリハーサルへと突入していくやぐっつぁんが、舞台袖の幕に消える間際、叫んでくれた。 「なぁーっち、なっちなっち、なーっちっ」 適当に口ずさみながら、通路を足早に駆け抜ける。開場前はいつも、微熱を孕んだ不思議な静けさ。 何度か、重たいドアを開けて客席を伺ってみた。ほとんど照明が当たってないから、暗い中で目を凝らす。 やぐっつぁんの言ったとおり、2階席のいちばん端の方になっちの姿を見つけた。 「なっつぁーん。どうー?」 座席の隙間をすり抜けて、ようやく隣へ辿り着いた。こっちを振り向いたなっちの目に、ステージ上の光が映ってる。 「んー、だいぶ遠いね。っていうかさぁ、やっぱここ広いよ。大きいよ」 言葉とは裏腹に、やる気に満ちた顔をして笑ってる。 「んとね、呼ばれてたよ。急ぎじゃないけど、って。たぶんMCの、今日変えるとこの打ち合わせだと思う」 「あらー、ほんとに?やっばい、じゃあ戻んなきゃ……あ。やっほー、矢口ー」 いきなり会話を逸らせたかと思うと、なっちがステージに向かって大きく手を振った。 つられてそっちに目を向けると、豆粒ぐらいの大きさに見えてるやぐっつぁんが、両手をぶんぶん振って飛び跳ねている。 「やー、元気だぁ矢口」 なっちは、目元を綻ばせる。あたしはその、優しげな横顔を見ていた。 「さっきね、ごっつぁんがソロでやってるのも見てたよ、ここから」 まっすぐにステージを見据えたまま。座席の背もたれに手を添えて、なっちがぽつりと呟く。 「すごいね。一人で、こうして見てる全員に向かい合うんだ……」 遠く、何かを探すような眼差しに、あたしは何も言えなくて、視線さえ逸らせそうにない。 時折、動きを大きくする照明の、いくつもの色が通り過ぎる。 「こんなに遠くまで、きっと、うんと頑張らないと届かない。ごっつぁんは、もう、そのこと分かってて……一生懸命なんだなって思った」 穏やかな、穏やかな、声。 そのとき、初めて気が付いた。 あたしは、なっちを置いて行くんだ。 「大丈夫だよね?頑張れよ、ね、コノヤロ!とか言っちゃったりして」 ふざけて肘で小突く真似。屈託なく弾ける笑顔。 あたしは、なっちを置いて行くんだ。 さらさらと零れる砂が――こんなに近い隙間を隔てる。 じゃあ戻るね、と歩き出したなっちを、数秒だけ目で追って。迷って。 スローモーションのような錯覚の中、あたしは必死で足を踏み出した。 すぐに追いついて、隣に並ぶ。並びたかった。他に何も無い。 なのに、なっちは不意に立ち止まって、振り向いたあたしをまじまじと見つめて。 「ごっつぁん、やっぱ3年間で身長伸びたねぇ」 そんな瞳で、全てを、赦す。 |