Let’s spend the night together



「ねぇ、本当に良かったのかな?」

痛々しいほど真摯な瞳で、アヤカがあたしに問い掛ける。

21歳になったばかりの、その夜。






ハッピーバースディのメールを送るのも、プレゼントを用意するのも、特に意識した訳じゃないしそういうのは嫌いじゃない。

相手が喜ぶ顔を見るのは嬉しいし、『ディナー御馳走してね♪』なんてメールが返ってくれば自然と口元は綻ぶ。

いつのまにやらウチで飲み直すことになってたり、道の途中で腕を組んだり。

何もかもそれだけのことで、とりたてて色っぽい話じゃない。

いや、アルコールでほんのり頬を染めてるアヤカなんて、傍目には多分めちゃくちゃ色っぽいんだけど。



「でも嬉しかったな、ちゃんと覚えててくれて」

華奢なグラスを優雅に傾けて、アヤカが目を細める。

「あんた、歳取りたくなーいって騒いでたじゃん。失礼な話よねぇ」

あと1ヶ月ほどでまた一つ年上になるあたしは、空いたグラスに再び葡萄色の液体を注ぐ。

わざわざ選んだ1981年のワイン。……それだって、意味深な雰囲気を醸し出すかと言うとそうでもなく。

「そういえば、こないだ知ったんだけどね、あたし小川ちゃんと誕生日一日違いなの」

「そうだ。昨日、小川の誕生日。あと、つんくさんも」

会話の内容は仲間のこと。仕事のこと。こんなふうに。

「だよね。小川ちゃんにメール送ったの、昨日」

「なに、アドレス知ってんの?いつのまに」

他愛もないきっかけで、どんどん色気とは縁遠い方向に転がって行く。

「5期メンバーの子たち、だいたい教えてくれたよ?『アヤカさーん』って、けっこう話しかけてくれるし」

「マジで?あたしよりよっぽどフレンドリーに接してるよ、それ」

ぼやいて頬杖をついたりしたら、今日が特別な日だなんて有り難みもほとんど感じなくなる。

「小川ちゃん、いい子だよね。すごい素直で可愛いの」

「あぁ。うん、素直。頑張りやさんだし」

それでも一瞬、その続きを口にするべきかどうか悩んで。

「……どうよ、プッチモニは」

結局、何もこんな日に、みたいな話題を口に上らせてしまって。



ゆらり、とアヤカの手元でグラスが揺れる。深く、それでいて不思議なほど澄んだ赤い色。

「どうなんだろう」

アヤカが零した言葉はあまりにも率直で、あたしは揺らめくワインの影をぼんやりと見つめる。

「頑張ってる。あたしだけじゃなくて、みんな。小川ちゃんも、よっすぃーも」

「……うん」

軽く挟んだ相槌に、アヤカは幾らか安心したような微笑みを浮かべた。

「よっすぃーはね、一緒にいると楽しい。すごい元気で、わーってテンション高くなって……時々わけ分かんないこと言うんだけど」

くすくす、と潜めた苦笑い。思い出し笑い。

「ちょっと、レフアといたときみたいだと思っちゃった。レフアもあんな感じだったの、なんとなく」

そういや、ハロプロの楽屋だったか。あの二人が妙なコミュニケーションを図っている場面、見たことがあったかもしれない。

「楽しいし、やっぱりよっすぃーがいろいろ盛り上げてくれて、いろいろ教えてくれる。すごくいい子、よっすぃーも小川ちゃんも――」

不意にアヤカは言葉を途切らせて、今度はやけに楽しそうに笑う。

「……何?」

「圭ちゃん、気づいてる?あのね、圭ちゃんってあたしがモーニングの他の子褒めると、すごく嬉しそうな顔するの」

妙に得意げな指摘に、あたしは思わず唇を尖らせた。……そんなの、みんな同じだと思うんだけどな。たぶん。



アヤカは軽く俯いて、気怠そうに髪をかき上げる。

「なんだか酔っちゃった」

自嘲気味に呟きながら、上目遣いであたしを見つめる。

長い睫毛に縁取られてる瞳が、潤んでるように見えるのは気のせいだろうか。

「ねぇ、本当に良かったのかな?」

その表情から笑みが消える。

「あたしね、プッチモニが好きだったの。圭ちゃんが楽しそうにしてるの見てて、すごく大事にしてるんだなーって思って、なのに――」

……顔、伏せるな。あんたって泣き上戸だったっけ?

せっかく今日は誕生日なのに。って、話振ったの元はと言えばあたしなんだけどさ。

「壊したくなかったのに、だから頑張ってるんだけど、分からないの。これで良かったのか、圭ちゃんは本当はどう思ってるんだろうとか」

「泣かないでよ」

手を伸ばして髪を撫でて、けれどもそれだけじゃ足りない。あたしはテーブルを迂回して隣に腰を下ろす。

肩に手を回そうとするより先に、アヤカが頭を凭せ掛けてきた。

「……ごめんね」

「なんで謝んの」

分からない、と言いたげに首を振るアヤカを、抱きしめるでもなくただ受け止める。乱れた髪を指で梳いて、震える背中に触れる。

アヤカの不安は身に染みて知っている。というか、そんな気持ちを直接的に知らないのは、モーニングでは圭織となっちぐらいのものだ。

あたしと矢口は勿論のこと、吉澤や石川や辻加護、5期の子たちは二重の意味で。

『追加』されたあたしたちには、たぶんいつだって、不安が付き纏っていた。

これで良かったんですか、本当にあたしで良かったんですか――誰かが答えてくれるなら、何度でも聞き返したくなるジレンマ。

たまに笑い話で零すことは出来ても、それでも決して誰も答えてくれないことを知っている。



「大丈夫だよ」

だから、自分で自分に言い聞かせるしか無くて。

「他の誰にも出来ない」

根拠も何もなく、ただ信じる。

「自分にしか出来ないって――そういう気持ちでいなよ」

今も。



「あたしは、アヤカでよかったと思ってるからね」

ゆっくりと耳元で囁いたら、アヤカは子供が縋るような仕草で抱き着いてきた。

不安を打ち消す答えには成り得ないだろうけど、言えることがあるとすればそれだけ。プッチモニを大事に思ってくれるあなたでよかった。

そして、言いたいことがあるとすれば。

「吉澤のこと、頼むよ」

なんてゆーか。アイツなら大丈夫だって思える信頼感85%、なんかやらかすんじゃないかって危機感15%ぐらいの現状。

「小川のこともさ」

プッチモニが、あの子にとって良いきっかけになってくれたら嬉しい。アヤカの言う通り、素直で一生懸命な小川。

こくこく、と逐一頷いてくれるアヤカに感じる愛しさは、他に代えられない特別なもの。

本当のところ、今までのプッチモニで築いてきたものはちょっとやそっとじゃ負けないつもりで。

けれども、願わくばそれを超えるものを見たいと思ってる。

だから、頼むよ。ねぇ、アヤカ。

――ほら、顔上げてよ。今日はあんたの誕生日なんだってば。



ほどなく泣き止んだアヤカは、まだ赤い目で晴れやかに笑った。

「やーねー、もう。酔いが覚めちゃった」

「よし、飲み直すかぁ」

ボトルに手を伸ばそうとしたあたしを、長い腕がさりげなく引き留める。

「なに?」

「ん、あのね、ワインもいいんだけど、ちょっと別のプレゼントも貰いたいなーなんて」

悪戯めいた眼差しと、それにつけてもストレートな台詞。あたしはぴたりと動きが止まる。

慣れないよ。慣れないんだけど、でも。

「……今?」

「出来たら、今すぐがいいな」

「ホントかよ……」

「だって、だってすごく嬉しかったし、よかったなぁって、あたしやっぱり圭ちゃんのこと大好きーって」

「分かったってばっ」



頬に添えられる手を、快いと感じてる。

視線で気持ちを交わして、やがて目を閉じる。

唇が触れるまでのタイムラグを、服の裾を掴んでやり過ごす。

訪れるキスに感覚を委ねて、いつしか腕の中に崩れ落ちて。



まだ言いそびれてる言葉、日付が変わる前に伝えられるかなぁ。

――誕生日おめでとう。で。えっと、さ。

こんなあたしを、これからも、よろしく。