One night story
−Lover soul−



――裕ちゃん。裕ちゃん。

何度も繰り返し、うわごとのように呼んだ。

意識に薄い靄がかかった、その向こうにいる、愛しい人。



怖がってるって、分かる。

年齢が上のあなたは、負うものや付き纏うものを透かし見てしまう。

それを知っていても。知りながら。あたしは何をしてあげることも出来ず、あなたを求めてやまない。

――ねぇ。ねぇ。裕ちゃん。

蕩けた声を、柔らかな肌に染み込ませるように。ぴったりと身体を寄せて、切れ切れに呟く。



――怖く、ない、よ。



傷ついてもいい。壊れてもいいよ。

自棄に似た、とりとめのない愛情が零れていく。

何も見えなくなって目を閉じた。涙が耳元に伝ったけれど、その雫の温度さえ感じなかった。



まっしろな中に、裕ちゃんがいる。

だからきっと、裕ちゃんの方では、まっしろな中になっちがいるのだと思った。

そういう色の、恋だった。

冷たくて暖かくて、緩やかで激しくて、ほかに何もなくて、すべてがある。



――好き。



不意に、自分が元の、きちんとした一人の人間だという感覚が蘇った。

あらゆるものが現実の輪郭を取り戻して、そこは見慣れた部屋になる。

隣りにいるのはいつもの裕ちゃんで、閉じた瞼も微かに震える睫毛も、ひどく懐かしくて慕わしい。

「……裕ちゃん」

気怠さに打ち勝って声で呼ぶと、何もかも間違いなく正しいことのように認識された。

あなたがいて、あたしがいること。

これ以上本当のことなんて、少なくとも自分の身の上には起こり得ないと思う。



まっしろな中にいた。

裕ちゃんと二人、いつも。

誰にも見えないぐらい、まっしろな中に、いる。