One night story
−Maybe I won’t ・・・−



一人で部屋にいるのは、嫌だ。

そんなことを人前で言えるようになっただけ、成長したってことなのかもしれないけど。

まぁ、でも。自分がそうだからって、ふと気に留めた相手がそうだとも限らなくって。

単純な話、仕事が早めに終わったから、たまにはそういうのもいいんじゃないかと思っただけで。



「石川ー」

「はい?」

メンバーが一斉に着替えたり荷物をまとめたりしてる、騒がしさの極みの中。肩先をつんつん、と突ついて声を掛けた。

きょとんとした表情で、石川が振り返る。

「なんか食べて帰んない?そっち、時間あったら」

「……あ、ハイ。大丈夫ですよ?」

含むところの何も無い会話。誰かが気づけば参加してくるだろうし、それでもいいし。

けれども、とりあえず今日のところは帰り支度の喧燥に紛れて、二人で連れ立って楽屋を後にした。



「何食べる?」

「そうですねぇ……何にしましょうか」

よく見知った通りへ出ながら、隣を歩く石川に視線を向けた。

帽子を深く被っていても、人差し指を口元に当てて思案している仕草は、分かる人には分かり過ぎるぐらい石川っぽい。

「あの。石川、イタリアンがいいです」

ぱっ、と思いついたふうに咄嗟に言われて、何故だかその単語がツボに嵌った。

「ふ……はは。あー、うん。いいよ。そうしよう」

――イタリアン……イタリアン、って。石川の口調で言われると、なんか、妙に上品っつーか……。

「いいですか?……なんで笑うんですか!保田さぁん!」

オカシイ。石川がムキになって抗議するから、余計に。

くく、と尚も笑いながら、適当な店を探して歩いた。



そんなふうに、楽しい夜だった。

食事は美味しかったし、石川は忙しいぐらいによく喋った。ちょうど、別ユニットでの活動が続いてた時期だったし。

サラダとかパスタとか、慣れない手つきで張り切って取り分けてくれたりして、なんだか微笑ましくもあり。

だから、帰りのタクシーの中で、あー楽しかった、って言葉は自然に口を衝いて出て。

――それに石川がものすごく大きな反応を見せるなんて、全く予想もしていなかった。



「本当に、楽しかったですか?」

後部座席で、身体ごとこっちに向き直るようにして、石川があたしを直視した。

「はぁ?……うん、楽しかったよ?本当に」

怪訝そうな顔をしてしまうあたしを見据える、石川の真剣な眼差し。

「それなら、良かったです」

あは、と。なんとも言えない柔らかな微笑みを浮かべて、両手で抱えていたバッグに軽く顔を伏せた。

可愛い奴、なんて胸の内で呑気に呟くあたしの耳に、石川の細い声が届く。

「今日、保田さん、ちょっと元気がなかったような気がしたんです。それで、なんか心配しちゃって……」

「……ふーん」

正直、驚いた。驚いてるくせに、あまりにそっけなく響く自分の声にもっと驚いた。

「あの、石川が勝手にそんな気がしただけだったんで、気のせいならいいんですけど。……でも。えーと……」

気のせいだよ、なんでもないよ、と言うべきなんだろうか。それはやっぱり嘘になるんだろうか。自分でも分からない。

「だから。楽しかった、って言ってくれて、本当に良かったなって思ったんです」

顔を上げて前を見据える、その綺麗な横顔から視線を逸らして、代わりにあたしは手を伸ばす。

手のひらが触れた帽子越しに、無造作に頭を撫でるだけ。



タクシーは先に石川のマンションに着いた。また明日、と簡単な挨拶を交わして送り出す。

ひらひらと小さく振られていた石川の手が、いつになく印象に残っている。

車内で携帯を取り出して、アドレスを呼び出そうとして手を止めた。

家に着いてから、改めてメールを打つことにしよう。



この気持ちが、恋だったなら良かったのに。

音も無く走る車の中、あたしは切なく瞳を閉じた。