One night story
−Strange fruit−
| ――こんな子になると思ってなかったでしょ。 愛らしく小首を傾げると、しっとりした黒い髪がさらりと流れる。 形の良い桃色の唇で、彼女は囁く。 ――なっちをこんなにしたのは、裕ちゃんなんだよ? そうか、とあたしは声に出さない呟きを漏らす。 抱き寄せたら、耳元にくすくすと吐息が零れた。 ――もっとね、簡単に済むことだと思ってたんだ。全部。 子供みたいに縋り付く腕が、あたしの背中を嬉しげになぞる。 あやすように指で髪を絡めても、その端から真っすぐに解けてゆく。 ――本当に、なんにも知らないで好きになったんだなぁ、って。 あのとき悪戯に手を伸ばしたのはあたし。 もがれて落ちた、『なつみ』という果実。 ――ね。 罪も罰も今も昔も、夢も現も何もかも。 この子のことなら一つ残さず、身体の内に知っている。 |