And a half



あいぼんとケンカした。

原因はすごくちっちゃいこと。

のんが読みかけの雑誌を置いといたらあいぼんが勝手に読んでて、どこまで読んだのか分かんなくした。

のんが文句言ったらあいぼんは開いてあったページを覚えてて『ここだった』って言うんだけど、そーじゃなくてなんでそういうことすんのって言ったら逆ギレされた。

『ちゃんと覚えてたんだからいいじゃん!』って。あいぼんはいっつもそうだ。のんがなんで怒ってんのかを分かってない。

そんで、いつもと同じ。もー人のもん勝手に触んないで!って言ったら、なんでそーゆーこと言うの!?って。のんのことケチな人扱い。超ムカつく。

あいぼんは自分勝手だ。そういうとこキライ。こんなケンカ何回やったか分からないぐらいなのに、ちっとも直さない。

のんはもーあきらめてるとこもあるんだけど、だからまぁいいかって思うときもあるんだけど、今日はなんかカチンと来てケンカになっちゃった。



それにしても謎なのは、ケンカしたことはいっぱい覚えてるのに、いつもどうやって仲直りしてるかを思い出せないことだ。なんでだろ。

いつも、いつのまにか元通りののんとあいぼんになってる。すごい不思議。

今みたく、ケンカしてるときはもうこのまま一生口きかないような気分になるのに。



安倍さんは、『ののとあいぼんは運命の二人なんだよ』って言う。

『出逢うべくして出逢ってるんだよ。そういう運命なんだよ』って。それもやっぱり、前にのんたちがケンカしてたとき。

『だからね、どんなにケンカしても大丈夫だよ。ずーっと特別な仲良しでいられるからね』。すっごい優しい顔でそう言ってくれた。

のんが頷いたら頭を撫でてくれて、それからそのとおりにすぐ仲直りできたんだけど、ほんとは今もちょっとよく分からない。

もしものんとあいぼんが運命の仲良しなら、こんなにしょっちゅうケンカしないで済むんじゃないかと思うんだけど。

そんな話を、すぐそばにいた紺野ちゃんに聞いてもらった。子供チームの楽屋に、今いるのはのんと紺野ちゃんとまこっちゃんの三人だけ。

のんたちのケンカで、5期メンバーに心配かけてる。そう思うとすごく申し訳なくって、なんとかしなきゃ、って強く思う。



「……でも、私も、辻さんと加護さんは運命だと思います」

すごく真剣な顔で、紺野ちゃんはそう言った。紺野ちゃんの目は犬の目に似てて、思わず見入ってしまう。

「けどさぁ、なんか、だったらみんなそうじゃん、って思うんだよね。たとえばー、のんと紺野ちゃんが出逢ったのも運命でしょ?」

「そう……ですよね。うーん……そうなんですけど。うまく言えないや」

考え込んでしまった紺野ちゃんと、やっぱり考え込んでしまったのんに、まこっちゃんが缶ジュースを差し出した。

ありがとー、とお礼を言って受け取る。手のひらに冷たくて気持ちいい。どういたしまして、とまこっちゃんが笑う。

「あれだよ、あさ美ちゃんこないだ言ってたじゃん、なんかウチらは運命感じるって」

まこっちゃんの言葉に、紺野ちゃんはぱぁっと顔を輝かせた。

「そうだ、それ……そうなんです!」

ほっぺを赤くして、ちょっと興奮状態な感じ。さっきよりずっとキラキラした瞳で、のんに一生懸命話してくれた。

「あの。こないだの、6期のオーディションがあったじゃないですか。あれを見てて、思ったことがあって」

紺野ちゃんは、考えながら、何かを思い出すようにして喋る。まこっちゃんが隣の椅子に座って、見守るみたいに眺めてた。

「分からないんだけど、私は、自分が5期だからモーニング娘。になれたんだと思ったんです」



「……」

「……」

紺野ちゃんの言葉がどういう意味なのか一瞬飲み込めなくて、のんなりに考えて、でもやっぱり分からなくって視線で助けを求めた、その微妙な間。

「えぇっと……なんて言ったらいいのかなぁ。私が受けてたのが6期のオーディションだったら、たぶん受かってなかったんじゃないかなって……」

6期のオーディション。見てた。思い出す。冬で、寒そうで、どっかの旅館みたいなとこで、3人。

紺野ちゃんたちの5期オーディションも、見てた。夏休みのお寺。9人から選ばれた4人。

のんたちのときは、春休み。やっぱりお寺で、10人いて、4人が受かった。

「すごく、そういうのを感じたんです。今度入ってくる子たちは、あの3人だから受かった。私たちは、4人で受かった、みたいな」

そうそう、とまこっちゃんが大きく頷く。

「あたしなんかー、未だに、なんで自分が受かったんだろう?とか思うんですけど。でも、あさ美ちゃんと愛ちゃんと里沙ちゃんといると、それがちょっと分かる気がするっていうか」

そんなふうに言うまこっちゃんは、いつもと変わらずニコニコ穏やか。紺野ちゃんが、優しい眼差しでのんを見つめる。

「辻さんと加護さんはすごいパワーがあるから、私たちとは違うかもしれないけど。でも、今こうして一緒にいるのは、やっぱりそういうのがあるのかなって……思いませんか?」



思いませんか?って言われても。

のんは紺野ちゃんみたく頭良くないから、すぐには分かんない。

ただ、言われてみればそうかな、って思わないこともない。

あいぼんに出逢ったこと。今までずっと一緒にいること。それがパワーになってること。誰より自分がいちばん知ってる。

もしも、あいぼんがいなかったら。そう考えたことだってあるよ。二人で一人みたいにされたくなかったとき。半分こしなきゃならないものを、一人分きちんと欲しいと思ったとき。

でも、そんな『もしも』の世界には絶対に行かない。のんはここにいる。あいぼんがいる、この世界に。

だから。あいぼんがいるから、ケンカもするんだ。当たり前じゃん。全部、あいぼんだもん。のんの本勝手に読んじゃうのがあいぼんだもん。

注意すれば逆ギレして、なかなか謝ってくんなくて、そういうあいぼんのそばに、勝手に本読まれるのがイヤだって思うのんがいるのが――。



「……運命なんだ」



呟いたそのとき、カチャリ、と静かにドアの開く音がした。

あいぼんが戻ってきたんだと思って勢いよく振り向いたら、びっくりした顔の飯田さんと目が合った。

「どしたの、のんちゃん」

「あー。んん、なんでもない」

「こっち、今3人だけしかいないの?」

のんと紺野ちゃんとまこっちゃんは揃って頷いた。飯田さんの持ってる、大きな白い箱に目が行く。

「差し入れのケーキ、まだ食べてない子がいるでしょ」

「えーと、あたしたちは……」

「はーい!はーいはーいはーいはーい!」

さっき頂きました、というまこっちゃんの言葉を遮って、のんは手を挙げて叫ぶ。飯田さんが、やっぱり、って顔して笑う。

「のんちゃんが食べてないから余ってるんだ。どれがいい?3個残ってるから、じゃあ、後みんなで分けちゃいなね」

そう言うと、机に置いたケーキの箱を開けてくれた。けど。

のんは、今日は朝からずっとあいぼんと一緒だったから、つまり。

「ちがう、あいぼんも食べてないの、のんとあいぼんの分だよ!」

取っとかなきゃ、と思った。箱を引き寄せて、閉じる。紺野ちゃんたちに食べられちゃうと思ったわけじゃないのに、なんか必死だった。

「……あ、加護さん、そっちの楽屋に行ってませんか?」

「え?来てないよ、あたし今までずっといたけど」

まこっちゃんが聞いてくれて飯田さんが答えてくれて。のんは箱を手元にキープしたまんま、ぐるぐる考える。

あいぼん、どこ行っちゃったんだろ。まだ、そんなに時間たってないけど。高橋ちゃんとかも付いてってくれたみたいだけど。

ケーキ、イチゴのとチョコのとカスタードのが残ってた。のんはチョコのが食べたいけど、でも、なんかあいぼんが先に選んでもいいかなって気持ちになってる。

ってことは、あいぼんが戻ってこないと、どっちがどれ食べるか決まんないじゃん。そんじゃ、ケーキ食べらんないじゃん。困っちゃうよ、ほんとにもー。

「のんちゃん?食べないの?」

飯田さんに顔を覗き込まれて、あわてて首を振る。そうじゃなくてあいぼんを待ってるんだ、って説明しようとした、ちょうどその瞬間。



ゆっくりとドアが開いて、あいぼんが戻ってきた。

高橋ちゃんに手を引かれて、新垣ちゃんに背中を押されて。

真っ赤なウサギの目が、のんをじっと見てる。なんか言おうとして、のんは何も言えなくて。

「ののぉ……ごめんねぇ……」

先に口を開いたのはあいぼんだった。その声とか、なんでか分かんないけど胸がキュンとした。

「いーよ、べつに」

ってゆーか、照れくさい。こういうの。仲直りの場面を思い出せないわけが、ちょっと分かった。

のんとあいぼんを代わりばんこに見てる飯田さんとか、嬉しそうに顔を見合わせてる5期メンバーとか見えちゃうから、よけいに。

「のんも、怒ってごめん」

付け足して言ったら、あいぼんがこくんと頷いた。それだけですごい安心な感じ。のんはケーキの箱を開けて、中身をあいぼんに見せてあげる。

「どれ食べる?選んでいーよ」

「うわぁ!ケーキだ!」

たちまち笑顔になったあいぼんが、ぱたぱたと駆け寄ってくる。笑い返したのんの、すぐ、そばまで。



「ほんとに、先に選んでいーの?」

「いーよぉ、どーぞ」

「どれにしよっかなー、じゃあね、じゃーねぇ、イチゴのっ」

「おー、気が合うねぇ。のんはチョコのが食べたかった、実は」

「そーなのぉ?じゃあ、バッチリじゃーん」

「そだねー。いーねぇ。んでさ、でね、こっちのは半分こにしよーねぇ」

「いい感じだねー。じゃあ、ハイ、一口どうぞー」

「んー♪……超オイシイ。じゃ、こっちは?」

「おいひー♪や、ちょっと、マジうま?」

「バリうま?」

「バリうま。……んふふふふ」

「ふふふふふ」

「やー、楽しいねぇ」

「いい日だねー」



二人で一緒に突っつき合って食べたケーキは、めちゃめちゃ美味しかった。

きっと、普通に一人で食べるのより2倍も3倍も。

なんでかっていうと。えーと。……たぶんこれが、のんとあいぼんの、運命の味ってやつだから。