Give my word



カオリ、誕生日に何欲しい?って矢口が聞いてきた。

去年からプレゼント交換するのやめたから、だからなんにもいらないって圭織は答えた。

知ってるけどさぁ、まぁちょっと聞いてよ。来年ヤグチはハタチになるわけよ。懐っこい笑顔で矢口は続ける。

そんなの知ってるよ、圭織が今年21なんだから矢口は今度ハタチなのは当たり前じゃん。スタジオに向かいながら、揃って足早に歩く。

だーかーらー。ハタチの誕生日は、絶対みんなに祝ってほしいじゃない?こう、スペシャルな感じでさぁ。圭織の腕に、矢口の腕が絡まる。

そんなの、催促しなくても平気だってば。矢口を腕に提げたまま、ラジオ局の廊下を進む。

ありがと!でね、だからカオリの誕生日にヤグチはなんかあげたいの、今年。コツコツカツカツと、二人分の足音が響く。



欲しいもの。黙り込んで考える。圭織の欲しいもの。いちばん欲しいもの。



目的のスタジオに辿り着く。これから、圭織は30分のレギュラー枠の録音。矢口はスペシャルウィークの番宣の収録。

帰りはきっと別々になるから、この場所で結論を出そうとして足を止めた。

「……じゃあ、花」

「は?はな?」

「うん。圭織に、花をください」

「へー、意外だ。いいよ、任せて。花束?でーっかいのとか?」

矢口が、見上げてる。圭織の唇の辺りを見つめてる。

「……でっかいのでなくっていい。小さいのでいい」

「小さい花?なんか、飾れそうなやつ?最近、花屋さんとかにいろんなのあるね、そういえば」

くるくると、めまぐるしく考えを働かせる、黒目がちの瞳に吸い込まれそう。



思い描いたのは、いちめんの花畑。



「小さい花。黄色い花。葉っぱがギザギザで、茎はまっすぐ。散った後は綿毛になって、何処までも飛んで行くの」

矢口はゆっくりと圭織の言葉を追って、視線を伏せた。

「……分かった」

なぞなぞが解けた子供みたいで、けれどもその声に明るさは無くて。

「何処にだって咲く、風が吹いても負けない花でしょ?」

泣き出しそうな顔で笑う。きゅっと腕に抱き着いて、それから勢いよく離れた反動で仕事場に向かう。

「任せて。楽しみにしてて!」

大きく手を振って、矢口は扉の中へと消えた。圭織も隣のスタジオへ急ぐ。

胸の奥が、愛しいような悲しいような、不思議な温度になった。



数日後、そんな会話をしたこと自体が忙しさに紛れる中、圭織はつつがなく誕生日を迎えて21歳になった。

プレゼント、あげたり貰ったり大変だから圭織はどっちも廃止する!って言い続けてるけど、やっぱりメンバーからはいろいろ貰ってしまう。

特に5期の子たち。出逢ってから初めての8月は、きっと大変だったに違いないと思う。圭織となっちと、2人いっぺんにだもんね。

そしてある日。今日残ってて!と矢口に突然言われた。それで、控え室で一人、時間を潰す。

他のメンバーが次々と帰っていって、やがてミニモニ。が収録を終えて戻って来た。オレンジ色の衣装は可愛いけれど、だいぶ疲れてそう。

ミカちゃんと辻加護を見送って、着替えを済ませた矢口が、さて、と圭織の方に向き直った。



「……カオ、あの……ごめんっ!」

両手で拝みながら頭を下げる矢口を見て、話の内容はなんとなく察しが付いてしまった。てゆうか、思い出した。プレゼントのリクエスト。

「探したんだよ、花屋さんとかいろいろ!でも、もともとあんまし置いてなくって、しかもこの時期じゃ扱ってないって言われてさぁ……」

「いいよ。矢口」

「ほんっと、マジごめん!いろんなとこ電話して聞いたんだけど、ダメだったの、見つからなかったー!ごめんー!」

「いいから」

自分自身が悔しくて堪らないような。そんな顔して謝られたら、許すも許さないもない。

それに。こんなこと言ったら矢口は怒るかもしれないけど、心の何処かでこういう結果になるのは分かってた気がする。

どんなに欲しがっても、手に入れられないものはあるの。あの花はいつも、圭織にそれを言い聞かせる。

「しょうがないよ、矢口。圭織の誕生日が春だったらよかったのかもね」

ぽつりと呟いたら、矢口は素早く顔を上げた。ぱち、と視線がぶつかる、馴染んだ角度で。

「それなんだけど!あのね、そう、今あげることは出来ないんだけど、春になったら見に行こう、一緒に」



雑草にも近いその野の花は、街の花屋さんではまず扱いが少なくて。

アレンジメントの造花も考えたのだけど、それでは自分が納得いかなかったのだと矢口は頬を赤らめて語る。

それで、調べているうちに、その花が群生する場所が都内にあるという情報を入手したらしい。

今見に行っても、ただの緑の草原なのだけど。その時期になれば一斉に咲き揃ってそれはそれは綺麗なのだと、見て来たように言う。

「ね?カオリ。来年の春、ヤグチと一緒に見に行こうよ」



いちめんの花畑。目映い黄色が、瞼を閉じてもなお焼き付くほどに。

来年の春、矢口と一緒に。見に、行ける?――タンポポの咲く場所へ。



「って……だから。カオリに、その約束だけ、今あげる」

すっと差し述べられた、矢口の手。一本だけ立てられた小指に、そっと自分の小指を絡めた。

「……約束?」

「そう。絶対守る。カオも、いい?」

指切りがどれだけ重いかなんて、たぶん自分たちがいちばんよく知っている。

叶えられない想い、裏切らざるを得なかった誓いをいくつも通り過ぎてきたの。

ささやかな――また一緒に来ようね、今度一緒に食べようね、ずっと一緒にいられたらいいね――本当にささやかな願いばかり、いつも。

だから、矢口がくれたものは、圭織が口に出せなかった、いちばん欲しいもの。

「絶対ね、矢口」

「うん。ヤグチも見たいから。……で、その前に来年1月、忘れないようにヨロシク」



指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます。綺麗なユニゾンで紡ぐ、圭織と矢口の約束。

長さの不釣り合いな小指だけど、指切った、と離してしまうのが寂しくて仕方なかった。