A day in my life



久しぶりに顔を合わせた姐さんは、ひどく追いつめられた表情をしていた。

いつになく蒼ざめた頬と、いつも以上に険しい眉間。

何があったのかと思わず口を開きかけて――それが愚問だったことに気づく。

子供のように強く、あたしの腕を握り締めたその力で。



表面上は軽口を叩き、愚痴を零し合いつつも。あたしの部屋に辿り着くまでずっと、姐さんは不穏な気配を引き摺っていた。

不意に握った手の指を絡めたり、タクシーの中で頭を凭せかけてきたり。本人気づいてるのかどうだか、かなり不安定な兆候。

部屋に帰って、ビール片手に腰を落ち着けて。それでやっと、一息ついたような雰囲気になったのだけど。

「……なんでなん?なぁ。なんでやの」

力無く笑いながら、視線を伏せる。あたしは答えあぐねて、曖昧に笑う。

「……なんででしょうねぇ」



自分のことは、自分のこととして受け止める。けれども、ハロプロのみんなが寂しがってくれるのが、嬉しくて切ない。

とりわけ、姐さん。きっと泣くだろうと思って、泣いてほしくなくて、そしてやっぱり。

「嫌や、そんなの。普通に嫌や。あたしが嫌やっちゅーてんねん」

目の縁を真っ赤にして、繰り返し呟く。俯いた頭と、細い肩。こういうとき、この人はどうしようもなく小さく見える。

腕の中に、すっぽりと包み込んでしまえそうだと錯覚するほど。

……錯覚は、いつまでたっても錯覚。この人を抱く腕を、あたしは持たない。今も、向かい側に座って、黙って見つめるだけ。

そんな胸の内を見透かしたように、姐さんは悲しげな眼差しを向けた。

「いつもそうやんなぁ、あんたは」

「そうかもしれませんねぇ」

「なんや、あたしが泣いてるのが悪いみたいな気ぃしてくる」

「姐さん、泣いても美人ですし」

「あほ」

「はい」



「……みっちゃん」



潤んだ視線で縋られて、あたしは取り繕った微笑みを浮かべる。

姐さんのこういうところが誤解され易いのだと、散々言ってきたのに本質的にまるで分かってはいない。

「また、そんな顔して。誘ってるって受け取りますよ」

「えぇよ」

柔らかで頑なな姿勢。すん、と鼻を鳴らす仕草は、ほとんど子供。

――物理的には、飽きるほど抱きしめた。未だに飽きることもなく。

けれども、こんなときには髪を撫でることさえ出来ずに。

「餞別みたいで嫌やないですか」

静かに、告げる。姐さんは目を閉じて、微かに仰向いた。その表情を記憶に刻む。それだけで十分だった。



今まで通り。気持ち的に、そうあり続けようと決めた。

あたしと姐さんの、距離とか関係とか。そういうものがもしもあるなら、こんなことでは何一つ揺らがない。

変化しながら続くものより、時にそれが大事なこともあるのだと。そう信じる。

「あと一本だけ付き合って、そしたら今日はもうおしまいってことで」

よく冷えたビールの缶を差し出すと、姐さんは目を細めて受け取った。



日付が変わる。姐さんと飲んだ昨日、姐さんと目覚める今日。

今年の秋のハロプロ卒業。4年前のハロプロ発足。オーディション。全てのステージ。これから先も。

そんな日々を散りばめたあたしの人生は、そうそう捨てたものでもない。

――誰に見せる訳でもなく、誰に誇る訳でもなく。